"母ちゃんへの三千円" 第9話
銭湯の湯煙と本のコーヒー牛乳
「ふぃ〜〜っ……き返るなぁ……」
気と湯煙がもうもうとち込める浴で、耕平さんが首まで湯に浸かりながら、極楽のような声をげた。
田区の裏にある銭湯『の湯』。
い格井の、富士の見事なペンキ絵が描かれた広い浴槽には、の仕事を終えた所の町の男たちがひしめきっていた。
吉雄も湯の縁にを乗せ、をい切り伸ばした。
「っ……でも、気持ちいいです……」
度を超える戸のい湯が、酷使して張っていた筋肉をじんわりと解きほぐしていく。
ドラム缶のたい灯油で凍りついていたの先が、チクチクと痺れるようなさを帯びて、血が巡り始めるのが分かった。
見渡せば、湯に浸かる男たちの体は、誰も彼も傷だらけだった。
腕に刻まれた切り傷の跡、で焼けた黒いシミ、擦りむけた膝僧。そして何より、爪の周りや掌の指紋の奥に染み付いた、落ちることのない黒い械油の。
それが、この度経済成の京の底辺を支える、労働者たちの共通の肌のだった。
「吉雄、背流してやるよ。こっち来い」
洗いで鹸を泡てていた耕平さんが招きした。
吉雄は湯からがり、さな桶を逆さにして腰掛けた。耕平さんがゴシゴシとい麻のタオルで背を擦ってくれる。
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「痛ってぇ……耕平さん、力入れすぎですよ」
「これくらい擦らねえと、鉄のが毛穴から取れねえんだよ。しろしろ」
耕平さんは笑いながら、シャワーのない代特の、赤と青の湯から桶に汲んだい湯を、バシャリと背に浴びせかけてくれた。
「……吉雄、さ、いくら送った?」
耕平さんがふと、声を落として尋ねてきた。
「千円です。千円は貯して、残りの百円をお遣いに残しました」
「偉いな。俺なんて、最初のの料は、千円しか送れなかったぞ。残りで映画観にって、浅でうなぎっちまった。から母ちゃんからの礼の読んで、申し訳なくて布団ので泣いたよ」
耕平さんは自分の胸の傷の痕を撫でながら、い目をした。
「なぁ吉雄。俺たちの仕事は、きつくて油まみれで、世からは『員さん』なんて軽く見られることもある。けどな、俺たちの削ったボルト本が狂ったら、幹線だって脱線するんだ。親方はが悪いが、絶対に嘘の仕事はしねえ。あの親方の背を見て技を盗めば、には俺たちだって自分のを持てる。俺はな、いつか故郷のに、胸張って錦を飾るつもりなんだ」
「自分の……」
吉雄は自分の両を見つめた。
まだ親方にげんこつをらい、ヤスリがけしかできないさな。けれど、こので鉄を削り続ければ、いつか自分も親方のように、誰からも文句を言われないの職になれるのだろうか。
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湯がりの脱は、扇のぬるいと、シッカロールの甘い匂いに満ちていた。
照った体に着をつけ、ズボンを穿く。
吉雄はポケットから、切に残しておいた銭入れを取りした。
番台のおばちゃんに、チャリンと円を渡す。
ガラスの蔵ケースから取りしたのは、ガラス瓶に入ったたい『コーヒー牛乳』だった。
の丸い蓋を針でペリリと剥がし、腰にを当てて、気に喉へ流し込む。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……。
「……んんっ、うめぇぇぇ!」
濃なミルクの甘みと、ほろ苦いコーヒーのりが、呂がりの渇いた喉を駆け抜けていく。
この本のコーヒー牛乳をむ瞬こそが、吉雄にとってヶので最も贅沢で、最も幸福なだった。
へると、夜が濡れた髪をよく撫でた。
空を見げると、京のるい夜空の片隅に、故郷の青森と同じ、たい斗が静かに瞬いていた。