"母ちゃんへの三千円" 第8話
茶封筒のみと郵便局の窓
。待ちに待った、に度の料がやってきた。
夕方半、いつもよりしく械の源が落とされ、内が綺麗に片付けられた。
事務所の古いの机のに、吉雄、耕平さん、武夫さんのが、背筋をピンと伸ばして列していた。全員、洗濯したばかりの清潔な作業着に着替えている。
机の向こうには、老鏡をかけた親方と、そろばんを脇に置いたおかみさんが座っていた。
「坂本吉雄」
「はい!」
親方に名を呼ばれ、吉雄は軍隊のように歩へみた。
親方のには、の茶封筒が握られていた。表にはペンで『千百円也 坂本吉雄殿』と太い文字でかれている。
当の卒の初任が万数千円、卒が万円だった代。卒のみ込み員の初任は、事と寮費が差し引かれ、取りで千円から千円程度というのが相だった。
「吉雄。今もも休まず、よく働いたな。怪もしたが、逃げさずにらいついてきた。……これ、今の料だ。受け取れ」
「ありがとうございます!」
吉雄は腰を度に折り、両で恭しく封筒を受け取った。
指先に伝わってくる、確かなのみ。
千円札が枚と、百円玉が枚。
まれて初めて、自分の汗と引き換えにに入れた、自分自の稼ぎだった。
広告
母の階段を駆けがり、階の畳へび込むと、吉雄はリンゴ箱のに封筒を置いた。正座をして、震える指で封をける。
から引きした聖徳太子の千円札は、しシワが寄っていたが、吉雄の目にはどんな宝物よりも眩しく輝いて見えた。
「へへ……すげえな」
わず元が緩む。
この千百円があれば、好きな映画館に何回もける。欲しかった革靴だって買えるし、デパートの堂でビフテキをべることだってできる。
だが、吉雄は千円札を枚、迷うことなく別のい封筒へと移し替えた。
千円。取りの割いだった。
「よし……」
残りの千百円のうち、千円をリンゴ箱の奥の貯箱へ入れ、残った百円玉貨と銭だけを、作業着のポケットにねじ込んだ。これが、吉雄のヶのお遣いだった。
「おい吉雄、郵便局くんだろ? 緒にくか」
階段のから耕平さんの声がした。
「はい、今きます!」
吉雄はい封筒を胸ポケットにしっかりと押し込み、階段を駆けりた。
へると、の夕暮れのたいが吹き抜けていた。
駅へ向かう商の通りは、同じように料袋をにした所の町の員たちで賑わっていた。仕てのいい既製の売りを叫ぶ商の声、焼き鳥の煙、ラジオから流れる美空ひばりの声。
広告
全体が、料の揚に包まれていた。
郵便局の窓には、すでに作業着姿の若い男女が以も列を作っていた。
誰もがに、実の所がかれた為替の用を握りしめている。形、田、福島、潟……窓のあちこちから、懐かしいの訛りが聞こえてきた。
吉雄は備え付けの机で、インクのにくいペンを握り、為替の用に文字をき込んだ。
『受取:青森県津軽郡 坂本ハツ』 『額:千円也』
通信欄の狭いスペースに、できるだけ丁寧な文字でき添えた。
『母ちゃん、今も元気に働いています。千円送ります。弟たちの物のと、妹たちのノートを買ってやってください。俺は飯をいっぱいってるから配しないでください』
窓で局員に封筒とおを差しすと、局員は慣れたつきで判子を押し、「はい、確かに預かりました。お母さん、ぶね」と優しく微笑んで受領証を渡してくれた。
郵便局をた瞬、胸の奥にあったたい責任が、温かい誇らしさへと変わっていくのをじた。
自分の稼いだで、母を助け、弟や妹に温かいを着せてやることができる。
歳のは、の夕焼けに染まる京の空ので、ほんのしだけの男にづいた気がしていた。