"母ちゃんへの三千円" 第5話
ガタガタとオート輪の砂埃
午のサイレンとともに、午の作業が始まった。
しかし、吉雄には油まみれの洗浄作業とは別の、な任務が待っていた。
「吉雄! ちょっとこっち来い!」
事務所の奥から親方に招きされた。親方の元には、麻袋に詰められたのひらの真鍮部品が、ずっしりと袋置かれていた。
「これをな、蒲田の駅にある『佐藤属』まで届けてこい。までに届けねえと、向こうのメッキ程が止まっちまう。いいか、絶対に落とすんじゃねえぞ」
「はい! 任せてください!」
吉雄は麻袋を抱えげ、の裏にめてある黒い実用自転の荷台へと運んだ。
太い鉄パイプで組まれた無骨な自転だ。荷台の両脇に丈夫な平ゴムのロープを回し、真鍮の袋を何にも固く縛り付ける。総量はキロを超えており、体を支えるだけでもずっしりとしたみが腕にい込んできた。
に作業をくかぶり直し、吉雄はペダルにをかけた。
「気をつけてっておいでよ! がいんだからね!」
の勝からおかみさんがを乗りして声をかけてくれた。
「ってきます!」
勢いよくペダルを踏み込むと、ずしりとい輪が軋みながら回転を始めた。
町の密集帯を抜けると、通りは猛烈な活気と喧騒に包まれていた。
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を埋め尽くしていたのは、けたたましいエンジン音を響かせてるオート輪『ダイハツ・ミゼット』や、黒煙を吐きす型トラック、それに急ブレーキのスキール音を鳴らすタクシーの群れだった。信号のある交差点はまだなく、警官がい袋を振って必に交通理をっている。
オリンピックの催にわせて、京のというで突貫事がわれていた。
舗装が剥がされ、砂利がむきしになったガタガタのをむたび、荷台の真鍮部品がジャラジャラと激しい音をててねがった。
「うわっ……!」
砂利にハンドルを取られそうになりながら、吉雄は必に太ももに力を込めてバランスを取った。
通り沿いの空きには、巨なコンクリート製の管が何本もピラミッド状に積みげられ、その周りをランニングシャツ姿の子供たちがだらけになって駆け回っていた。駄菓子の先には鮮やかなアイスキャンディーの旗がはためき、テレビのにはだかりができている。
埃っぽくて、騒々しくて、誰もがに向かってがむしゃらに突きんでいる——それが、昭の京の空気だった。
分ほどペダルを漕ぎ続け、汗だくになりながら蒲田の『佐藤属』へたどり着いた。
「こんにちは! 沢製作所から部品をお届けにがりました!」
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自転のスタンドをて、息を切らしながら事務所の引き戸をけると、帳簿をつけていた配の社が顔をげた。
「おお、沢さんとこの僧さんかい。ご苦労さん、待ってたよ」
社は荷台の部品を際よくろすと、伝票に受領の認印を押してくれた。そして、吉雄が真っ赤な顔をして荒い息を吐いているのを見て、目を細めて笑った。
「かったろう。偉いねぇ、卒で青森からてきたんだって? 沢の親方は頑固だが、腕は品だ。しっかりついていくんだぞ」
「はい! ありがとうございます!」
「ほら、これ持ってきな」
社がズボンのポケットから取りして差ししてくれたのは、のひらに包まれた粒のハッカ飴だった。
汗でベタつくのに粒放り込むと、ツンとした爽な甘みが喉いっぱいに広がり、疲れた全に力が蘇ってくるようだった。
帰り、荷台が軽くなった自転は、まるで羽がえたように軽にんだ。
午半。へ戻ると、おかみさんがたい麦茶と、物の塩せんべいを数分、作業台のに並べて待っていてくれた。
分の『の』。
このい休憩だけは、械の騒音も消え、親方の顔にも微かな笑みが浮かんでいた。
吉雄はコップの麦茶を気にみ干し、塩せんべいをバリバリと音をててかじった。
親方が煙をくゆらせながら、吉雄の顔をチラリと見た。
「おい、吉雄」
「はい!」
「……、速かったな。についたそうだ。等だ」
それだけ言うと、親方はすぐにそっぽを向いて茶をすすった。
ぶっきらぼうな、たった言の褒め言葉。
けれど、吉雄の胸の奥は、まるでの陽だまりに包まれたかのように、誇らしさとびに満ち溢れていた。
しかし、この平穏なが終わった、吉雄は町の職たちが直面する、過酷で徹な現実を目の当たりにすることになるのだった。