"母が泊まらない理由" 第13話
お菓子の箱と、階の扉
「これ、咲さんに持って帰ってあげて。所の方にいただいた焼き菓子なの」 玄関先で、かず子はさな袋を直の元に押し付けました。
「母さんがべればいいじゃないか」 「じゃべきれないのよ。みんな同じようにお菓子を持ってくるんだから」
靴を履き、靴紐を結び直す直の背に、かず子がそっと声をかけました。
「直。泊まりに来いって言ってくれたのは、本当に嬉しかったのよ。嘘じゃないわ」 「……うん」
「でもね、次は泊まるかどうか、私に決めさせてね」
直は振り返り、母の穏やかな笑顔を見つめました。 「分かったよ。……じゃあ、バザーに遅れないようにな」
「はいはい。あんたも気をつけて帰りなさいね」
の帰、の窓に映る自分の顔を見つめながら、直は咲のことばかりを考えていました。 母のためにと張り切っていた自分のが、いかに咲の居所を奪い、窮屈ないをさせていたか。 夫婦で作ったはずのしいで、番をねていたのは誰だったのか。
夕方の過ぎ、玄関の鍵をけると、のにはばしい汁の匂いが漂っていました。 「ただいま」 「おかえり。かったね」
台所から顔をした咲に、直は持っていた焼き菓子の袋を渡しました。 「これ、母さんから。咲さんにって」
「えっ、お義母さんから? 嬉しい、美しそうなお菓子」
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咲が受け取って微笑んだ瞬、直はくをげました。
「咲、ちょっと階に来てくれないか」
咲を伴って階段をがり、階の向きの部の扉をけました。 昼の陽気の名残が、まだほんのりと漂っているかい部でした。
「ここ、咲の仕事部にしよう」
直の言葉に、咲は驚いて目を丸くしました。 「え……? いいの? お母さんの部はどうするの?」
「今、母さんのところへってきたんだ。でさ」 「えっ、で?」
「うん。そしたらさ、カレンダーの予定がびっしりで、俺なんかよりずっと忙しそうだったよ」 直は苦笑いを浮かべ、まっすぐに咲の目を見つめました。
「母さんも言ってたんだ。ここは咲さんが使うべきだって。……今まで便ないをさせて、本当にごめん」
咲は驚いたように元をで覆い、それから胸を撫でろすように、ほっと息を吐きしました。
「ありがとう、直。……でもね、お母さんが泊まりに来るは、ちゃんと片付けて部を空けるよ」 「布団は押し入れにしまっておいて、泊まるだけ机を端に寄せればいいんだ。最初からそうすればよかったんだよな」
は顔を見わせ、久しぶりにからの笑顔を交わしいました。