"母が泊まらない理由" 第8話
すれ違う夫婦と度目の話
最初の曜から週が過ぎた頃でした。 に入り、にはの気配が気に濃くなっていました。
夕の、直はスマートフォンをに取り、再び母へ話をかけました。 リビングのソファには、仕事の類を理し終えた咲が座ってお茶をんでいました。
「もしもし、母さん? 今、丈夫?」 『ええ、丈夫よ。どうしたの?』
「来の初めさ、駅できなイルミネーションのイベントをやるらしいんだよ。 くに美しそうな打ち蕎麦のも見つけたし、また遊びに来ない?」
受話器の向こうで、母が嬉しそうに声を弾ませました。 『あら、お蕎麦いいねえ。カレンダー見てみるわ』
「じゃあさ、今度こそ泊まりで来なよ。ゆっくりしよう」 直が誘い文句をねた瞬、母の声のトーンがすっと落ち着いたものに変わりました。
『泊まりはいいわよ。お昼をべて、イルミネーションを見て、夕方ので帰るから』
またしても、躊躇のない拒絶でした。 直の胸に、抑えきれない苛ちが込みげてきました。
「なんでそんなに嫌がるんだよ? 俺のに泊まるのが、そんなに嫌なのか?」 『嫌だなんて、言も言ってないでしょうに』
「だったら泊まっていけばいいじゃないか! 部だって空いてるんだから!」 直がわず声を張りげると、隣で本を読んでいた咲がびくりと肩を揺らしました。
広告
受話器の向こうで、擦れの音が微かに聞こえました。 『あ、ごめんね。今アイロンをかけてる途なの。焦げちゃうから、また話するね』
「あ、おい、母さん――」 ツーツーと、無質な切断音が元に響きました。
話に残されたのは、理由の分からない拒絶の余韻だけでした。
直はスマートフォンをソファに放りし、額にを当てました。 「咲……母さんが泊まりたがらない理由、何か聞いてるか?」
咲は本を膝のに伏せ、静かに首を横に振りました。 「聞いてないよ。私も、お義母さんに泊まってほしくないわけじゃないし」
「じゃあ、何なんだよ。せっかく客を作ったのに……」 愚痴をこぼす直に、咲はく息を吸い込み、を決したようにをきました。
「ねえ、直。……階のあの部、いつまで空けておくの?」
「え?」 直が顔をげると、咲の瞳にはいが宿っていました。
「いつでもお母さんが泊まりに来られるようにって、決めたじゃないか」 「話はしたよ。でもね、『いつでも来られる』のと、『誰も使わない部にしておく』のは違うとうの」
咲の声は静かでしたが、その奥には張り詰めたが滲みていました。
「お母さんが来るたびに、私の机をどかすのも変だろって直は言うけど…… 毎あそこで仕事をして、毎晩事のたびにパソコンを片付けているのは、今の私なんだよ」
直は言葉を失いました。 咲がダイニングテーブルで黙々と作業をしていた姿が、脳裏に浮かんでは消えました。
「この、ローンだってで半分ずつ払ってるんだよ。 ……私も、自分の仕事机が置きたい」
咲は鳴りませんでした。 ただ静かにちがり、卓の端に積まれていたファイルをひとつずつ、自分の仕事箱へと戻していきました。
カチャリと箱のフタが閉まる音が、直の胸にく突き刺さりました。