"母が泊まらない理由" 第5話
牛すね肉のシチューとカーテンの裾
「ここがお母さんの部だよ。向きで、うちで番当たりがいいんだ」
階へ案内した直は、胸を張ってドアをけ放ちました。 窓から差し込むの柔らかな差しが、畳まれた布団とフローリングをるく照らしていました。
「まあ、るいねえ。もよく通るし、気持ちがいいわ」 かず子は部の真んにち、ぐるりと見渡しました。
「当たりだけなら、こので番贅沢な部なんですよ」 ろからついてきた咲がそう言うと、かず子はハッとしたように振り返りました。
「じゃあ、咲さん、ここで仕事したらいいじゃない。机も本棚も、余裕で置けるでしょう?」 「あ……そうですね。そのうち移そうかなってってます」 咲が言葉を濁すと、直が慌てて割って入りました。
「でも、母さんが泊まりに来たとき、机があったら邪魔だろ?」 「私なんて、そんな何回も来ないでしょうに。そんなのもったいないわよ」 かず子はあっさりと首を横に振りました。
「何回でも来ればいいんだよ。母さんの部なんだからさ」 直が笑いながら言うと、かず子は窓際へ歩いていき、元で布が余っているカーテンの裾に目を落としました。
「これ……すぎない?」 「断効果をめるドレープ仕様なんだよ」 「測り違えたわね?」 「……あ、ちょっとだけ」 直がを掻くと、かず子はクスクスと声をてて笑いました。
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夕は、咲がから煮込んでいた牛すね肉のビーフシチューでした。 赤ワインと野菜でじっくり煮込まれた肉は、スプーンで触れるだけでほろりと崩れるほど柔らかくなっていました。
「咲さん、これ本当に美しいわ。お肉がとろけるようだね」 「よかったです。圧力鍋に助けてもらいました」 嬉しそうに微笑む咲の横で、直も誇らしげにスプーンをかしました。
「キッチンの換気扇も最式だからさ、どれだけ煮込んでも部に匂いが残らないんだよ」 「設備は派だねえ」 かず子はしたように頷き、ふとリビングの隅の棚に目を留めました。
「ところで、あの棚ののプラスチックの箱は何?」 「あ……私の仕事の類とパソコンです。ご飯をべるにどかしたんです」 咲が答えると、かず子はスプーンを止めました。
「いつも、ここで仕事をしてるの?」 「はい。朝に広げてお昼に片付けて、また広げて夕飯で片付けて……ちょっとした体操ですね」 咲が笑ってごまかそうとすると、直が横からを挟みました。
「今だけだよ。荷物が完全に片付いたら、リビングの隅にさい机でも置こうとってるし」 「そう……」
かず子はそれ以何も言わず、にされたみかんのい筋を、本本丁寧に指先で剥き始めました。 静かな沈黙が流れる、台所から湯器の子音がピピピと響きました。
「母さん、お呂が沸いたよ。マイクロバブルがる最の浴槽なんだ。温まるよ」 直が笑顔で声をかけた、まさにその瞬でした。
かず子は剥き終えたみかんを皿に置き、静かに顔をげました。
「ありがとう。……でも私、そろそろ帰るわね」
その言が、夜の温かなリビングの空気を、瞬にして凍りつかせたのです。