"同窓会で「席はない」と笑われた私に、若女将が一礼" 第11話
夜の帳とめない湯呑み
宴会が終わり、同級たちがそれぞれの客や温泉へと引きげていった、松乃の館内にはい静寂が戻りつつあった。
夜のを回った頃。
照を落とした階のロビーの片隅で、庭の林を望むソファに、麗子が、じろぎもせずに座り込んでいた。
昼の華やかなのスーツはどこかシワが寄り、首元の真珠のネックレスだけが、暗がりのでく浮きがっている。元には何も持たず、ただぼんやりと、夜に揺れるの葉を見つめていた。
パタパタと、柔らかなスリッパの音がづいてきた。
だった。
染めの作務に着替えたは、のお盆のに湯気のつつの湯呑みを載せ、麗子ののガラステーブルにコトリと静かに置いた。
「麗子さん。温かいほうじ茶を淹れてきたわ。……今度は、ぬるくないわよ」
麗子の肩が、ビクリとさくねがった。
ゆっくりと顔をげた麗子の目は、赤く腫れがり、ファンデーションの落ちた頬には幾筋もの涙の跡がく残っていた。
「……どうして」
絞りすような、掠れた声だった。
「どうして、最初から言わなかったのよ。……女将だって、この旅館の主だって、言言ってくれれば……私、あんな恥ずかしい真似、しなくて済んだのに……!」
は麗子の隣にそっと腰をろし、自分の湯呑みを両で包み込んだ。
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「言ったらね、麗子さんはきっと、私にをげてしまったでしょう?」
「え……?」
「建設の奥様として、誰よりも誇りくきてきたあなたが、女将という肩きのに畏まって、気を使って……そんなの、寂しいじゃないの」
は庭の夜空を見げながら、穏やかに言葉を紡いだ。
「私はね、ただ昔みたいに、同じ教で机を並べていた頃のように、麗子さんと話がしたかったのよ。宗郎さんもね、よく言っていたわ。『同窓会にくなら、肩きなんて玄関に置いていけ。みんな裸貫で、ただの悪ガキに戻ればいいんだ』って」
麗子は言葉を失い、テーブルのの湯呑みを見つめた。
ちるばしい湯気が、え切った彼女の頬を温かく撫でていく。
「……私ね」
麗子のから、ぽつり、ぽつりと、のずっとの奥底に澱のように沈殿していた言葉が零れ落ち始めた。
「ずっと、あなたが羨ましかったのよ」
「私が……?」
「そうよ。私は呉の娘で、何自由なく育てられて、勉も番で……誰からもチヤホヤされていなきゃ、自分の価値が信じられなかった。でも、あなたは違った。飾らないのに、いつも誰かに囲まれていて、先からも信頼されていて……」
麗子は震えるで湯呑みを抱え込んだ。
「卒業式の答辞も、宗郎さんも……私の欲しかったものを、あなたが全部さらっていったような気がして、悔しくてたまらなかったのよ。
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あの子にだけは絶対に負けたくない、あの子より派な暮らしをして、見せつけてやりたいって……そればかり考えてきてきたわ」
麗子の瞳から、粒の涙がポロポロと畳に落ちた。
「でも、今分かったの。さらっていったんじゃない。……最初から、あなたの方がずっと相応しかったのね。私には、の席を用するどころか、の席を奪うことしかできなかった……」
「そんなことないわ、麗子さん」
は優しく微笑み、麗子の震える肩にそっとを添えた。
「今回の同窓会をいてくれたのは、麗子さんよ。もの同級に、ずつ話をかけて、況を聞いて、この宿まで集めてくれた。それはね、並抵のじゃできないことよ。あなたがいなければ、私たちは今、こうして先の笑顔を見ることもできなかったのよ」
麗子は顔を覆い、子供のように声をげて泣き崩れた。
「……ごめんなさい。さん、本当に……ごめんなさい……!」
の歳を経て、ようやく届いた、さく、けれどたい謝罪の言葉。
は何も言わず、ただ静かに、泣きじゃくる同級の背をさすり続けた。
夜の底で、清流のせせらぎが、のわだかまりを洗い流すかのように、どこまでも優しく響いていた。