みかん小説
本棚

"同窓会で「席はない」と笑われた私に、若女将が一礼" 第7話

れのと藤の着物

。同窓会の当を迎えた。

あいのを埋めるように漂っていた朝が、昇り始めた朝のを受けて黄に透き通っていく。見事なれだった。

朝、松乃の裏にある駐で、浩が黒いワンボックスカーのエンジンを静かに始させた。

「母さん、それじゃあ先を迎えにってくるよ。先の体調を見ながら、途での駅で何度か休憩を挟んでくるから、夕方の宴会にはちょうど着く段取りにしてある」

「ありがとう、浩。先、腰を痛めやすいから、座席に敷く反発のクッションを持っていってね。の揺れは体に障るから、ゆっくりるのよ」

「分かってるよ。任せておいてくれ」

頼もしくを振ってりっていく息子のを見送り、はいつものようにぼうきをに取った。

ええとした朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、玄関先の畳を掃いていく。シャッ、シャッ、というよいの音が、静かな温泉に規則正しく響き渡る。

に嫁いできたの朝も、こうして宗郎の隣でほうきを握っていた。どんなに忙しいも、が沈むも、この玄関を掃き清めることで、は自らのを真っ直ぐに保ち続けてきたのだ。

掃き掃除を終えてれに戻ると、は鏡のに座り、髪混じりの髪を丁寧にろで束ねた。

広告

箪笥から取りしたのは、落ち着いた藤の無の着物と、鼠の帯だった。派すぎず、かといって粗末でもない、齢にふさわしい品な枚。かつて宗郎が、の還暦の祝いに誂えてくれた切な着物だった。

着付けを終え、帯留めをきっちりと締める。

はわざと旅館の裏戸から度の通りへと抜けた。そして川沿いのを渡り、正面のアプローチをゆっくりと歩いて、表玄関の簾をくぐった。

の客として、同級たちと同じ敷居を跨ぐために。

帳からひょっこりと顔をした若い仲居の美が、着物姿のを見るなり、目を丸くして息を呑んだ。

「お、……あっ、い、いらっしゃいませ!」

慌てて々とをげる美に、は差し指を元にそっと当て、目元だけでいたずらっぽく笑ってみせた。

「美ちゃん、今は、よろしくね」

「は、はい……! 女将、とってもお綺麗です」

声で囁き返す美に頷き、はロビーへと歩みをめた。

正面玄関の広には、すでに懐かしい顔ぶれが集まり始めていた。髪の増えた者、し恰幅の良くなった者、鏡をかけた者。という歳が刻んだ皺の奥に、かつての代の面がふわりと浮かびがってくる。

胸の奥がくなるのを覚えながら、は受付の机へと向かった。

そこには、のスーツにを包んだ麗子と、恵子が並んで座っていた。

「あら、さん」

麗子は元の名簿から顔をげ、周囲に聞こえよがしない声を張りげた。

「悪いけど、あなたの席はないのよ。会費、まだ振り込まれてないみたいだから」

と同じ、を見すことでしか自分の価値を確かめられない、しい響きを持った声だった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: