"同窓会で「席はない」と笑われた私に、若女将が一礼" 第6話
通の賀状と隠された部
古い桐の箱の蓋をけると、乾燥したの匂いとおのかすかなりが、ふわりと先をかすめた。
野は、畳のに正座したまま、輪ゴムでひとまとめにされた葉の束をそっとに取った。を卒業した歳のから、歳を迎えた今の正に至るまで、枚も欠かすことなく届き続けた賀状——恩師・信吾先からの、通の便りだった。
たちの、国語の授業と担任を受け持っていた先。徒ひとりの作文を丁寧に読み込み、赤ペンでびっしりと温かい講評をき添えてくれた、厳しくも優しい恩師だった。
束の番にある、今の正に届いた葉に目を落とす。
使い慣れた万の細い線は、寄る波のせいか、所々でわずかに震えていた。
『さん、賀。 私もとうとうになり、このでめっきり腰がってしまいました。所の散歩も杖なしでは覚束ず、ので過ごすが増えております。 の噂で、今のに々のクラスが古希の同窓会を催すと聞きました。皆もとうとうですか。の経つのは本当にいものです。 の痛みをえばは難しく、席は叶いそうにありません。けれど、あの賑やかだった教の子供たちが、揃って良きを歩み、髪交じりの顔を寄せう姿を、度でいいからこの目で見てみたいものだと、ばかりが先にってしまいます。
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松乃の繁盛を、くから祈っております』
この葉を読んだ解けの朝、は、れで静かに涙を拭った。
先は、みんなに会いたがっていらっしゃる。
誰よりもにく、卒業も徒たちのく末を案じ続けてくれた先が、が痛むからという理由だけで、最の節目になるかもしれない同窓会を諦めようとしている。
はそののうちに、息子の浩を呼んだ。
「浩、お願いがあるの。本館の階にある『桔梗の』を、子のままで過ごせる部に改装してほしいのよ」
松乃は百続く純の造旅館だ。格式ある佇まいの反面、玄関や廊には段差がく、客に入るにも敷居やがり框を跨がねばならない。
「桔梗のを? 母さん、あそこはうちで番歴史のある数寄造りの部だよ。を剥がしてスロープをつけるとなると、結構な仕事になるけど……」
「費用は私のへそくりから全部すわ。段差をなくして、柱に目たないすりをつけて、トイレも子でそのまま入れるように広げてほしいの。広へ続く渡り廊も、子が滑らかに通れるように板を張り替えてちょうだい」
真剣なの差しに、浩は何も言わずに頷いてくれた。
「分かったよ。母さんがそこまで言うなら、腕利きの宮に頼んで、部の趣を壊さない見事なバリアフリーに仕げてみせるよ」
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事は初のうちに完した。
は浩の運転するに乗り、隣町のすそにある先の自宅を訪ねた。玄関で恐縮する先のを取り、改装した部の写真を見せながら、々とをげたのだ。
『先。松乃の玄関からお部、そして宴会の広まで、段差はつもございません。当は、浩がでお迎えにがります。どうか、みんなの元気な顔を見に来てくださいませんか』
先は写真を持つを震わせ、鏡の奥に涙を溜めて頷いてくれた。
『野さん……ありがとう。君がそこまでしてくれるなら、老骨に鞭打ってでもかせてもらうよ。皆には……当まで内緒にしておいておくれ。私が急にけなくなったに、がっかりさせたくないからね』
麗子が先に「が悪いなら欠席ですね」と事務な話を入れたのは、その約束が交わされるよりのことだった。
先は麗子にも、の誰にも、が部を作って迎えに来てくれることを漏らさなかった。自も、そのことを誰にも話さなかった。
仏壇の写真のの宗郎が、細い目をさらに細めて、優しく微笑んでいるように見えた。
「お父さん。もうすぐ、同窓会だよ」
は桐の箱を静かに閉じ、押し入れの奥へと切にしまい直した。