"同窓会で「席はない」と笑われた私に、若女将が一礼" 第3話
のとたい線
「はい、松乃でございます」
帳にいた苗が受話器を取ると、話から名乗りもそこそこに、尊な調子の女性の声が響いてきた。
『もしもし、松乃さん? 来の同窓会で幹事をしているですけれど。主がね、元の建設の会をしているのよ』
受話器の音量をし絞りながら、苗は元のメモ帳にペンをらせた。「はい、様。いつもお世話になっております」
『案内状にはね、もう会費万千円って印刷して配っちゃったのよ。も度に泊めてあげるんだから、平料にして、その値段で泊、み放題つきでやってもらえるわよね? それから、幹事の私の部は、川沿いの番広くて景のいい特別にしてちょうだい』
葉狩りの最盛期を迎えるの週末。松乃の泊の基本宿泊料は、通常であれば万千円をらない。万千円でみ放題までつけるとなれば、完全に赤字の計算だった。
「恐れ入ります、様。当館の正規料からいたしますと、々厳しい条件でございまして……」
苗が困惑しながら返答しかけた、帳の奥の茶箪笥でお茶を淹れていたが、そっと招きをした。
はメモ用にサラサラと鉛をらせ、苗の目のに差しした。
『構いません。
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私が差額を埋めますから、お引き受けしなさい』
苗は目を見張ったが、女将の静かな差しに頷き、受話器へと向き直った。
「かしこまりました、様。その条件でお引き受けいたします。お部の配も承りました」
『当然よね。元の名士を使ってあげるんだから。じゃあよろしくね』
ガチャン、と方に切れた話の音を聞きながら、苗はくため息をついた。
「お義母さん、本当によろしいのですか? 差額をお義母さんの個のおから補填するなんて……」
「いいのよ、苗さん。せっかくみんなが、歳のお祝いに集まってくれるんだもの。それに……麗子さんは昔から、ああいうだったから」
は湯呑みからちる湯気を眺めながら、い目をした。
の。
県の講堂でわれた卒業式。の胸の奥には、今でもあのの記憶が鮮に焼き付いていた。
その、卒業総代として答辞を読むことになったのは、だった。
学首位の座を最まで争っていた麗子は、自分が総代に選ばれるものと信じて疑っていなかった。式の直まで、誰よりも華やかな袴の柄を誇らしげに見せびらかしていた麗子の横顔を覚えている。
式が終わり、壇からりてきたの横を通り過ぎる瞬、麗子はすれ違いざまに、氷のようにたい声での元に囁いたのだ。
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『……どうせ、先に媚びでも売って、ひいきされたんでしょう』
背筋が凍るようなたい線だった。は何も言い返せず、ただ卒業証をく胸に抱きしめることしかできなかった。
けれど、そのの帰り。
えのするの、満の桜が咲き誇るので、自転を押しながらを待っていたのが、宗郎だった。
『川さん!』
宗郎はの姿を見つけると、い歯を見せて駆け寄ってきた。
『答辞、すごくよかったよ。……あの最の、僕、忘れないとう』
宗郎はクラスで番の気者で、勉も運もでき、何よりも誰に対しても裏表のない優しいだった。そして麗子が、入学した頃からずっと、い線で追いかけ続けていた男子でもあった。
それから。学を卒業し、業の旅館を継ぐ修をしていた宗郎は、を松乃の古い玄関に連れてきて、照れくさそうにを掻きながら言ったのだ。
『さん。この宿の玄関をさ、僕と緒に掃いてくれないか。……、ずっとさ』
あれから半世紀。
麗子のあの棘のある言も、宗郎の温かいプロポーズも、昨のことのようにいせる。
その週末の曜、松乃は満の活気に包まれていた。
は作務姿のまま広にがり、今入ったばかりの若い仲居の美に、お膳の並べ方を教えていた。
「女将、お箸の向き、これでってますか?」
「ええ、とても綺麗よ。でもね、美ちゃん。席をえるっていうのはね、ただお膳を並べることじゃないのよ」
は畳のに正座し、並べられた座布団を優しく撫でた。
「座るの顔をね、ずつい浮かべながら用するの。の悪い方には、めの座子を。え性の方には、あらかじめひざ掛けを添えて差しげる。そうやってを込めてえた席はね、お客様にもちゃんと伝わるものなのよ。『ああ、ここは私のために用された所なんだ』ってね」
「座るの顔を……ですか」
「そうよ。席っていうのは、そのを歓迎するそのものなんだから」
、がこの松乃で、夫と共に何よりも切に守り続けてきた教えだった。
しかし、その週。
は駅の古い純喫茶に、麗子から突然呼びされることになったのだった。