"同窓会で「席はない」と笑われた私に、若女将が一礼" 第1話
同窓会の受付とたい赤い線
の澄み切ったが、あいの温泉を吹き抜けていた。
川沿いに静かに佇む造階建ての老舗旅館『松乃』。その広い玄関ロビーには、とりどりのスカーフや等なジャケットにを包んだ男女が、々々集まり始めていた。今で歳、古希を迎えたかつての同級たちだ。あちこちで「久しぶり」「何ぶりかしら」と懐かしむ声ががり、華やかな気が漂っている。
そんな、藤の落ち着いた無の着物に袖を通した野(みずの・はるえ)は、さめのハンドバッグを抱えるようにして、玄関脇に設けられた受付の机へと歩み寄った。
受付には、のスーツに粒の真珠のネックレスをらせた麗子(たかぎ・れいこ)と、その隣にぴったりと寄り添うように座る恵子が陣取っていた。
が机のでち止まり、穏やかに微笑んで会釈をしようとした、そのだった。
「あら、さん」
麗子は元の名簿からわざとらしく顔をげると、細く描いた眉をキュッと持ちげてみせた。周りの同級たちにもはっきりと通るような、甲くよく響く声だった。
「悪いんだけど、あなたの席はないのよ。会費、まだ振り込まれてないみたいだから」
ロビーのあちこちで談笑していた同級たちの線が、斉にへと集まった。
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「……あらまあ」
は驚いたように目を丸くし、それからふうと静かに息を吐いた。
「先のに、指定されたこちらの旅館の座へ、きちんと振り込みましたけれど」
「あら、そうおっしゃられてもねぇ」
麗子は赤いボールペンを指先で弄びながら、名簿のをの目のに突きつけた。そこには名の名が几帳面に並んでいたが、の名の欄だけ、太い赤い線で乱暴に塗りつぶされていた。
「ほら、見ての通りよ。確認が取れなかったから、線引いちゃったの。だいたいあなた、ここの旅館で仲居さんのお伝いをしてるんでしょう? 恵子さんがこの、お布団運んでるあなたを見かけたって言ってたわよ」
隣に座る恵子が、元のハンカチで元を押さえながら、クスクスとの悪い笑い声をてた。
「そうよ、さん。ご主をくされて、活も変なんでしょう? 万千円の会費なんて、仲居さんのお料からぽんとすのは厳しかったんじゃないかしら。無理なさらないでって、グループの連絡でも流しておいたのに」
受付を取り囲んでいた同級たちのに、ざわざわとした気まずい空気と、微かな笑が広がっていった。
には、同窓会の会を務める正夫のように、申し訳なさそうに線を泳がせて目をそらす者もいる。
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誰もが麗子の烈な物言いに逆らえず、ただ「落ちぶれた同級」としてを気の毒そうに眺めるばかりだった。
麗子は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、さらに追い打ちをかけるように言った。
「まあ、せっかくくから来てくれたんだし、ぶらで帰すのも悪態よね。もし、今の宴会で皆さんのビールやお茶を運ぶのをお伝いしてくれるなら、広の隅っこにつくらい、お盆を置く席を作ってあげてもいいけれど。どうかしら?」
「ちょっと、麗子さん! それはあんまりじゃないの!」
背から、京から駆けつけたの親友・友子が割って入ろうとした。
しかし、はそっとを挙げて友子を制した。るでもなく、取り乱すでもなく、ただ背筋をすっと伸ばしたまま、麗子を穏やかな瞳で見つめ返していた。
そのだった。
ロビーの奥、帳の格子戸がカラカラと音をててき、履の気よい音が駆け寄ってきた。
「女将! こちらにいらっしゃいましたか!」
息を弾ませて駆け寄ってきたのは、若の着物を端正に着こなした若女将・苗だった。