"離婚して10年、元夫が鍵を替えなかった理由" 第9話
始発のと病棟の朝
翌朝の午半。
の澄み切った朝が差し込む病院の階ロビーに、キャリーケースを引いた若い女性がび込んできた。
「お母さん!」
息を切らして駆け寄ってきたのは、福岡から始発の便で駆けつけた娘のゆだった。
「ゆ、お疲れさま。かったわね」
「羽田からタクシーばしてきたの! お父さんは!? 丈夫だったの!?」
肩をさせて配そうに尋ねる娘に、みつ恵は優しく微笑んで頷いた。
「ええ、丈夫よ。昨会ってきたけど、識もはっきりしてるし、先からも軽度の梗塞だから、リハビリを続ければ常活には戻れるって言われたわ」
ゆはほっと胸を撫でろし、それからじっと母親の顔を見つめた。
「……お母さん、なんだか昨話したと、顔つきが全然違う」
「そうかしら?」
「うん。昨は今にも倒れそうなくらい震えた声だったのに……今は、なんだかすごくスッキリしてる。……ねえ、お父さんの部、ったんでしょ?」
みつ恵は鞄からキーケースを取りし、さな粘のを見せた。
「ったわよ。この鍵、ちゃんと使えたの」
「えっ……本当に!? 鍵、変えてなかったんだ……!」
ゆは目を見張り、それから泣きそうな顔で元を押さえた。
「やっぱりね……。私、ずっと気になってたんだよ。お父さんの部に遊びにくたびに、玄関にいピンクのスリッパが置いてあってさ。
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『これ、お母さんのじゃない?』って聞いても、お父さん、を真っ赤にして『片付けるのを忘れてただけだ』って誤魔化すんだもん。も片付け忘れるわけないのにさ」
娘の言葉に、みつ恵は苦笑した。
「本当に、あのお父さんらしいわね。……ゆ、病にくに、ちょっと売に付きってくれない?」
「売? 何か買うの?」
はエスカレーターをり、の売へと向かった。
朝の売には、聞や雑誌、入院活に必な用品が所狭しと並んでいた。奥のリハビリ用品や類のコーナーにち止まり、みつ恵は棚に並んだスリッパを真剣に見比べ始めた。
「お母さん、スリッパ?」
「ええ。部にあった古いスリッパ、もうボロボロだったから。しいのを買っていこうとってね」
棚には、底のい反発のものや、歩きやすい滑り止めのついたものなど、様々なスリッパが並んでいた。
みつ恵がに取ったのは、柔らかなパイルでできた、落ち着いたサーモンピンクのスリッパだった。のあの桃のスリッパによく似た、温かみのあるいだった。
「お母さん、それ、自分の用でしょ?」
ゆがくすくす笑いながら覗き込んできた。
「ええ、そうよ。……それとね」
みつ恵は隣の棚から、同じシリーズの、濃いネイビーブルーのスリッパをもうに取った。
「つ、買うのよ。
お父さんの分と、私の分」
ゆは瞬きょとんとし、それから満面の笑みを浮かべて、母親の腕に抱きついた。
「……うん! つね! 絶対つじゃなきゃ駄目だよね!」
「ちょっと、ゆ、きい声さないの。恥ずかしいじゃない」
のスリッパを抱えてレジへ向かうみつ恵の横顔は、朝のに照らされて、分のを巻き戻したかのように若々しく輝いていた。