"離婚して10年、元夫が鍵を替えなかった理由" 第4話
持っているがいるから
「度も……ですか?」
みつ恵の問いかけに、池さんは静かに頷いた。
「ええ、度もです。……あれは、くらいだったかな。この所の古いマンションで、ピッキングの空き巣被害が何件か続いてね。警察からも指導が入って、うちのマンションでも、古いギザギザの鍵を使っている部は全部、防犯性のいディンプルキーに取り替えることになったんですよ」
池さんは当のことをいすように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「オーナーさんも費用をしてくれるってことでね、私が全戸を回って鍵の交換をお願いして回ったんです。みんなつ返事で変えてくれましたよ。物騒な世のですからね。……だけどね、正彦さんだけが、どうしても首を縦に振らなかった」
みつ恵の胸が、ぎゅっと締め付けられた。
「正彦さんが……断ったんですか?」
「ええ。普段は物静かで、何をお願いしても『分かりました』としか言わないがね、そのばかりは頑として譲らなかったんです。防犯危ないから、費用もかからないからって何度説得しても、『このままでいいんです』の点張りでね」
池さんはさく息を吐き、みつ恵をじっと見つめた。
「議にってね、私が聞いたんですよ。『正彦さん、どうしてそんなに古い鍵にこだわるんですか?』って。
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そしたらね、あの、し困ったように眉をげて、の先を赤くしながらこう言ったんです」
池さんの声が、夕暮れの廊に静かに落ちた。
『——この鍵を持ってるが、まだいるので』
からたいを浴びせられたかのように、みつ恵の考が真っになった。
「持ってるが……いるから……?」
「それ以はね、誰が持っているのか聞いても、『まあ、いいんです』って照れ笑いするだけで、何も教えてくれませんでしたよ。でもね、奥さん。私にはすぐに分かりましたよ。あのが待っているのは、誰なのかってことくらい」
池さんは優しく目を細め、それ以何も言わずに、に持った箒をかし始めた。
「荷物、取ってきてあげてください。病院で待ってるでしょうから」
「……あ、ありがとうございます」
みつ恵は掠れた声で礼を言い、々とをげた。
池さんの音がざかっていく。
夕暮れのたいが、吹き抜けの廊を吹き抜けていった。
みつ恵はのの鍵を見つめた。ゆが作った赤い根の粘細が、夕に照らされてぼんやりと朱に染まっている。
この鍵を持っているが、まだいるから。
、度も連絡を寄越さず、便りつさなかった元妻の元にある、返し忘れたはずの鍵。
あのは、それをっていたのだ。
私が鍵を持っていることをっていて、防犯の危険を冒してまで、鍵穴をそのまま残し続けていた。
震える指でドアノブを押しげると、カチャリとさな音をてて、閉ざされていた扉がゆっくりと内側へといていった。