"毎朝「出ていけ」と怒鳴る隣人、測量の日に顔色が変わった" 第10話
ノートに残した々
沼さんの声が茶のに響いた。岡先はすぐに返事をせず、先ほど置いたを指で押さえた。
「こちらの提案は、選択肢をまとめたものです。まず内容をご覧ください」
「読む必なんかないわ」
「内容を確認せずに決めることはできません。を買い取る、使用料を支払う、を取り壊してを返す。それぞれの条件を記載しています」
勝夫さんは、妻のからを取り、黙って読み始めた。途で何度か岡先に質問をした。支払う期や、を返すの期限。岡先はそのつど、提案の該当箇所を示して説した。
沼さんは、しばらくのやり取りを聞いていたが、やがて私を見た。
「お隣同士なんだから、しくしてくれたっていいでしょう。困ってるから、そんなに取ろうとするなんて」
私は膝のに置いていたノートをいた。最初にいたのは、の朝のことだった。そこから、毎朝の言葉、柿の葉のこと、洗濯物のこと、ゴミ袋のことが付順に並んでいる。
「沼さん、から今まで、毎朝のことを記録してあります。『引っ越しなさい』『あんたの顔を見ると気分が悪い』『目障り』とおっしゃったも、全部いています」
「そんなこと、何の関係があるのよ」
「の話とは別です。でも、私にてけと言い続けていた方に、をく貸すことはできません」
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沼さんはをきかけたが、言葉がてこなかった。私はノートを閉じた。これを見せて相を怖がらせたかったわけではない。ただ、私は何を言われたか忘れないよう、毎いてきた。その記録を、今は自分ので伝えていた。
勝夫さんが、妻に向き直った。
「おが毎朝、しず子さんに引っ越せと言わなければ、話しいもこんなふうにはならなかったかもしれないんだぞ」
「あなたも緒になって言ってたじゃない。寄りに広すぎるとか、てけば丸く収まるとか」
「俺は……」
勝夫さんは言葉を詰まらせた。自分も、私にてってほしいと言ったことをいしたのだろう。沼さんは、夫をにらみつけた。
「私だけのせいにするの?」
「そうじゃない。俺も悪かった。でも、これは親父が決めた約束なんだ」
勝夫さんは、確認に目を落とした。
「親父がしず子さんの祖父と決めたことを、らなかったからって無かったことにはできない。まず、どうするか決めないと」
茶のは静かになった。とめさんが、湯のみを持ちげてんだ。岡先は、急いで結論をさなくていいと伝えた。提案を持ち帰り、族で考えてもらうことになった。
が帰ったあと、とめさんは縁側から庭を見た。
「しず子ちゃん、あんたが毎朝いてたノート、役にったね」
「ノートは、の証拠じゃありません。
私は自分が何を言われたか、忘れないようにいていただけです」
「それでいいんだよ。自分の暮らしを、自分で確かめておく。それが事なんだ」
私はノートを膝のに置いた。毎朝、がづくたびにじていた緊張が、しずつほどけていくようだった。