"父の葬儀中「飯を作れ」と怒鳴った夫に、参列者が…" 第3話
変貌した夫と奪われた
呼吸をして気持ちを落ち着かせ、私は再び式の扉をけた。
焼の列はまだ続いていた。私は親族席の最列に戻り、くをげて参列者の方々を迎えた。
親族席の端には、健の父親である義父・正男(まさお)さんが、さく背を丸めて座っていた。義母のかず子に隠れて、でを乗り継いで駆けつけてくれた優しいだ。正男さんは私の腫らした目を見て、すべてを察したように痛ましそうに目を伏せた。
(丈夫……あとしで、告別式は終わる)
そう自分に言い聞かせていただった。
私のので、切ったはずのスマートフォンが、再び激しい振を始めた。
画面を見なくても分かる。健だ。
もう源を切ってしまおうと画面をスワイプした瞬、指が触れて通話が繋がってしまった。
『おいコラ美穂! てめえ、何回話切ってんだよ!』
会全体を切り裂くような声が、静寂のに響き渡った。
お坊さんの読経が、ピタリと止まった。
式にいたを超える参列者全員の線が、斉に私へと向けられた。
『聞こえてんだろ! 親父の葬式なんかどうでもいいから、とっとと帰ってこいって言ってんだよ! んだ奴より、きてる俺様を優先するのが嫁の義務だろうが! のジジイなんてもう分きただろ! 親父がんで遺産が入るからって、いい気になってんじゃねえぞ!』
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受話器のスピーカーから漏れす、品極まりない罵詈雑言。
会の空気が、瞬で凍りついた。
参列していた父の同僚だった配の先が、りに顔を真っ赤にしてちがった。所のおばあさんが元を押さえて息を呑み、親族席の義父は顔を両で覆って項垂れた。
「健さん……やめて……お願いだから……」
私の声は震え、涙で掠れて言葉にならなかった。
「お願いだあ!? ふざけんな! 誰のでこれまで飯わせてもらってきたとってんだ! 俺の稼ぎがなきゃに迷うだけの無能なパート主婦のくせに! く帰って座して飯作れ!」
のが真っになった。
、最初に就職した精密器メーカーで会ったの健は、こんな男ではなかった。
つの営業部の先輩。経理部だった私が伝票の処理に追われていると、「経理の田さんに迷惑かけたくないからさ」と、いつも几帳面に領収を揃えて持ってきてくれた。
交際を始めて父に挨拶に来てくれた、健は産に父の好物の栗羊羹を携え、畳に両をついてくをげてくれたのだ。
『お父さん、美穂さんを必ず幸せにします。僕が涯をかけて守ります』
父は嬉しそうに目を細め、健と何局も将を指した。回続けて父が勝っても、健は嫌な顔つせず「お父さん、すぎますよ!」
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と笑っていた。
『負けても腐らず、相を敬える男だ。美穂、いいを選んだな』
父はそう言ってし、結婚をから祝福してくれた。
けれど、その仮面は、婚姻届を提したそのに剥がれ落ちたのだ。
婚旅のホテルの部で、健はたい目で私を見ろして言い放った。
『おはもう佐藤ののなんだから、田ののことは忘れろ。親父に甘えるのも終わりだ』
帰国すぐに「嫁がで働くなんて世体が悪い、俺の甲斐性がないみたいに見える」とされ、私は好きだった経理の正社員の職を辞めさせられた。
、健が『田精』という元の優良メーカーに転職して料ががったはずなのに、に入れられる活費は円も増えなかった。それどころか、用品代すらりなくなり、私は所のさな務で経理のパートを始めざるを得なくなった。
『パート代の万は全部俺に渡せ。おは数字に細かくて無駄遣いするから、俺が管理してやる』
通帳もキャッシュカードもすべて取りげられ、毎テーブルのに放り投げられるように渡される万円のお遣い。
美容院にもけず、自分の着を買うのすら躊躇し、伸びた髪をお呂で自分で切る活。
『コンビニで百円のペットボトル? 筒持ってけよ、無駄使うな!』 『先より気代が百円いぞ! 何に使ったんだ!』
毎晩、円単位で計簿の数字を尋問される々。
それでも私は、「私がすれば波はたない」「父に配をかけてはいけない」と自分に言い聞かせ、、耐え続けてしまったのだ。
『おい! 聞いてんのか美穂! さっさと返事しろ!』
話の向こうの健は、なおも勝ち誇ったように鳴り続けていた。
私はただ、震えるでスマートフォンを握りしめ、溢れる涙を止めることができずにち尽くしていた。