"結婚23年目、35万円を渡した妻が持ち帰ったもの" 第11話
使わなかったお
帰り、は窓のを眺めていた。のがざかり、町の景に変わっていく。息子は部座席で眠っていた。
「あなた、あの万円、ほとんど使わなかったのよ」
がぽつりと言った。
「そうなのか?」
「お母さんに必なものを買って、残りは返そうとっていたの。でも、お母さんが『これはあなたのために使いなさい』って」
「何か買ったのか?」
「母の用の着と、気毛布を買ったわ。あとは事をしたり、昔の写真を焼き増ししたり。ったより使わなかったの」
「残りは返さなくていいよ。おが好きなものを買えばいい」
はし困ったように笑った。
「私、欲しいものってあまりいつかないのよ」
「じゃあ、で使おう。温泉でもくか」
は驚いて、私の方を見た。
「温泉?」
「ああ。今度はでゆっくりしよう。きたいところがあれば言ってくれ」
は、窓のに線を戻した。しばらくして、久しぶりに声をげて笑った。
「そうね。ってみたいところはたくさんあるわ」
「どこだ?」
「この帰った、母と昔った温泉の話をしたの。今もあるか分からないけど、川沿いにさな旅館があったでしょう」
「今度、調べてみよう」
「あなた、温泉は苦じゃなかった?」
「苦というほどじゃない。で呂に入る方が落ち着くって言っていただけだ」
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「じゃあ、無理しなくていいのよ」
「無理じゃないよ。おときたいんだ」
そう言うと、は照れたように笑った。私はハンドルを握りながら、その横顔を見た。
結婚して。く緒に暮らしてきたからといって、相の気持ちまで分かるわけではない。が何も言わないのは、何も望んでいないからではなかった。彼女は、私や息子の暮らしを優先し、自分の願いをにすることを回しにしてきた。
私は、そのことに気づかなかった。気づこうとしなかったのかもしれない。
に戻ると、私は荷物を運び込んだ。は持ち帰った野菜を台所に並べ、漬物の包みを蔵庫に入れた。私は着物とアルバムを、傷まないように棚のへ置いた。
「その着物、今度ちゃんと虫干ししないとな」
「そうね。母にもらったものだもの」
「写真も理しよう。息子にも見せてやろう」
は頷いた。息子は目を覚まし、祖母からもらった漬物を見つけると、「これ、うまいやつだ」と言った。
私たちはで、母親が持たせてくれた野菜を夕にした。が子どもの頃からべていたという煮物を、今度は息子と私がべる。卓には、実のと、これから話していくいが並んでいた。