"結婚23年目、35万円を渡した妻が持ち帰ったもの" 第10話
もう慮しなくていい
帰るの晩、母親はを台所へ呼んだ。私は居で息子と話していたが、の声が聞こえないよう、しれた縁側に移った。
しばらくして、が戻ってきた。には、あの古い着物とアルバムがあった。
「母がね、これからはあなたが持っていてって」
「にも聞いたよ。切な着物なんだろう」
「そう。でも、母はもう自分で着ることもないから、私に持っていてほしいんですって」
は着物を胸に抱いた。母親は、娘が帰ってくるたびにしずつ荷物を渡しているようだった。写真や、古い具。どれも、母親が緒に過ごしたのかけらだった。
その夜、私は母親とでし話をした。
「が結婚してから、寂しくなかったですか」
母親は、すぐには答えなかった。湯呑みを両で持ち、湯気を見つめていた。
「寂しかったよ。でも、あの子にはあの子の活があるからね。困らせたくなかったんだ」
「も、帰りたいと言えなかったようです」
「そうだろうね。あの子は昔から、に頼むのが苦だった。自分がすればいいとってしまう」
母親の言葉を聞いて、私は頷くしかなかった。私はのその性格を、優しさだとっていた。優しいから何でも引き受けてくれる。気が利くからのこともできる。けれど、その優しさに甘えすぎていた。
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「これからは、私たちがもっと来ます」
「ありがとう。が来てくれるだけでも嬉しいよ。でも、あなたも無理をしないでね」
「無理じゃありません。今まで私が気づかなかっただけです」
母親は、しだけ目を細めた。それから、が子どもの頃の話を続けた。邪をひいた夜、父親が晩そばにいたこと。学に入った、がので泣いたこと。初めてでバスに乗った、母親が見えなくなるまでを振っていたこと。
私は、その話を聞いているうちに、のらない面が次々と見えてくるようだった。彼女は、ずっと私の妻であるに、ここで育った娘だった。
翌朝、帰る支度を始めると、母親は野菜や漬物を袋に詰めてくれた。
「そんなにたくさん持てないよ」
「なんだから丈夫。が好きな根も入れておいたよ」
「お母さん、ありがとう」
母親はの頬に触れ、「またおいで」と言った。
「うん。また来るね」
その言葉は、よりも迷いなく聞こえた。私はのドアをけ、母親が乗り込むのを伝った。母親は、駅まで緒にくのではなく、ので私たちを見送った。
がきしても、は窓からを振り続けた。母親の姿が見えなくなってから、彼女はようやくを向いた。