"赤飯を炊いた朝" 第4話
曜の試験
曜の朝、私はいつもよりく起きた。の米を研ぎ、噌汁の具を切り、昼の仕込みを子に頼んでからをた。
「にくこと、お父ちゃんには言ったと?」
子は包丁を持ったまま聞いた。
「まだ」
「またられるよ」
「帰ってから言う」
子はしばらく黙り、私のから根を受け取った。
「には兄ちゃんたちが来るんやろ。にわんかったら、私が湯を沸かしとく」
倉きの列は混んでいた。作業の男、事務の女、学。窓に見えるボタがしずつざかり、代わりにの煙突が増えた。炭鉱の町では黒い煙を見げて暮らしてきたのに、こちらでは同じ煙が仕事のある印に見えた。
佐伯品は、きなではなかった。い建物が棟並び、入には野菜を積んだ箱が置かれている。案内してくれたのは、作業着のにい掛けをつけた代の女だった。
「の佐伯です。今は来てもらっています。まずを洗って、子をかぶってください」
女のだとらず、私は瞬驚いた。佐伯はそれを見て、「父が社ですが、現は私が見ています」とだけ言った。
試験は、切り干し根の煮物と卵焼きを決められた分量で作ることだった。隣の台にいた若い女性は、目盛りを確かめながら調料を量った。
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私は普段の癖で、煮汁を指につけてを見ようとした。
「松尾さん、それはやめてください」
佐伯の声がんだ。
「ここは堂と違います。百がべるものですから」
顔がくなった。私はを洗い直し、渡されたを見た。醤油何、砂糖何匁、加するまでいてある。をえる余がないようにえた。
できあがった卵焼きは、私のですものよりだった。佐伯は分を同じきさに切り、さを量った。
「松尾さんのはおいしいです。でも、本のさがずいぶん違いますね」
「すみません」
「ここでは、昨と今で違うものをせません。作るが替わっても同じでないと困ります」
、私は客の顔を見てを変えてきた。歯のいには根をく煮て、若い坑夫には飯をめによそった。それが腕だとっていた。
帰り際、佐伯が言った。
「すぐに採用とは言えません。来週、もう度来られますか。次は、百分の仕込みを伝ってもらいます」
私はをげた。駅へ急いだが、帰りの列が遅れ、に着いたのは半だった。
堂にはすでに男たちが集まっていた。子がきなやかんで茶を沸かし、富子の息子の健が子を運んでいた。私を見るなり、が言った。
「どこっとったん」
「倉」
「買い物?」
「仕事を探しに」
男たちの話し声が止まった。
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は私の提げから、い布子がはみしているのを見た。
「俺らが仕事を守ろうとしよるに、母ちゃんはもう次の仕事か」
「今しか試験のがなかったんよ」
「試験? はどうすると」
「それも考えとる」
「考えとるだけやろ」
は席に戻り、集会を始めた。組の馬が会社との交渉内容を説した。賃の未払いを防ぐこと、移る先のある者とない者を分けて扱わないこと、閉までの作業で無理をさせないこと。話は切実で、私は台所から黙って聞いていた。
会の途で、若い坑夫がちがった。「移れるだけ先に決めるのはおかしかろう。寄りを残して、俺らだけけるか」。すると窓際の配の男が、子を鳴らして言い返した。
「若いのが先にかんでどうする。俺らに気を遣って、みんなで仕事なくすつもりか」
がのに入り、「今は喧嘩せんで」と声を張った。私は台所から見ていた。坑夫たちは同じ会社に腹をてていても、これから先の暮らし方はずつ違っていた。
「女将さん、湯をもう杯もらえる?」と馬が呼んだ。私はやかんを運んだ。男たちの湯みを満たしながら、誰の見にも簡単にうなずけなかった。仕事を探す者も、最まで会社と話す者も、どちらも違っていないとえたからだ。
集会のあと、若い坑夫が残り、壁に貼る連絡表を作っていた。
転職先の話があればきし、誰でも見られるようにしたいという。が私に「ここに貼ってよか?」と聞いた。私は「もちろん」と答えた。赤飯の話はまだ消えない。それでも、の壁なら貸せた。
集会が終わるころ、馬が湯みを返しに来た。
「女将さん。あんた、仕事探しよるとね」
「ええ」
「それでよかとうよ。うちの女も、隣町の縫製へ聞きにった」
私は驚いて顔をげた。馬は笑わなかった。
「男はで飯がえるといがちやけんね。俺も含めて」
馬が帰ったあと、は誰もいない堂を見渡した。
「母ちゃん、俺は逃げんけん」
「逃げろなんて言ってない」
「なら、勝に俺の先を決めんで」
私は答えず、湯みを洗った。はその背に向かって言った。
「今、健に話が来た。別の坑に移れるかもしれんって。俺にも、同じ話がある」
を止めた。別の坑へ移れば、息子はまたへりる。
「決めたと?」
「まだ。でも、母ちゃんが赤飯炊いたくらいで、俺の仕事は終わらんよ」
その夜、私は初めて、赤飯を炊いた朝よりもい怖さを覚えた。