"赤飯を炊いた朝" 第3話
閉の
、炭鉱の事務所にだかりができた。の脇に、閉までの作業予定と再就職相談の程が貼りされたのだ。
私は仕入れの帰りにを止めた。末までに採炭を終え、そのあと設備の片づけをする。坑内の員は段階に減らす。再就職の相談は職業定所の係員が受け付ける。にはそんなことが細かい字でかれていた。
「これで納得できるか!」
垣の向こうで、が声をげていた。隣には富子の息子の健もいた。たちは若い坑夫を集め、会社に転勤先の保証を求めるつもりらしい。
昭吉はしれたところにっていた。息子の声を聞いても、何も言わない。私がづくと、昭吉は顔をそむけた。
「昼飯、持ってきた」
「いらん」
「べんと午も仕事やろ」
「仕事の話をでしたら、赤飯炊かれるけんの」
隣にいた男が気まずそうに笑った。私は包みを昭吉の元に置いた。
「置いとくよ。嫌なら、誰かにやって」
坂をりかけると、若い母親が呼び止めた。抱いている赤ん坊の頬に煤が付いていた。
「まつやのおばちゃん、うちののツケ、来まで待ってもらえんですか」
「今の分もまだやけど」
「会社から、今度の当がいつるかわからんって」
私はを閉じた。堂の米も噌も、ただでは仕入れられない。けれど、目のの赤ん坊を見て、今から現でなければ駄目だとは言えなかった。
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「今週の分だけにしよう。来週、もう回話そうね」
女は何度もをげた。私は自分がいつまで同じ返事をできるのか、わからなかった。
帰り、学帰りの子どもたちが坂をってきた。がきな袋を抱えている。袋のから教科がのぞいていた。
「どこへくと?」と私が聞くと、男の子は「引っ越し」と答えた。父親が先に阪へ仕事を探しにき、族も来にはるという。まだ学の子が、まるでの話でもするように言った。
「友達には言ったと?」
「うん。みんなで送別会してくれるって」
男の子は笑っていたが、ろにいた妹は何も言わなかった。さなでランドセルの紐を握りしめている。
夕方、そのの母親が堂に来た。ツケを払いに来たのだとったら、違った。子にうかもしれない制を持ってきたという。転先では形が違うので、置いていっても仕方ないらしい。
「こんなものですみません」と女は言った。私は制を受け取るに、どこへ引っ越すのか聞いた。女は名を答えたが、そこがどんな町かはまだらないと言った。
「向こうにりいは?」
「誰も。でも、主が先に部を探してくれたけん」
女は笑おうとした。私はその笑顔を見て、先にていくにも、怖いことはいくらでもあるのだとった。
女が帰ったあと、子は制を広げた。
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袖丈はしい。私は「直せるね」と言い、娘は「うん」と答えた。引っ越す子が増えるたび、町に残る私たちは、何かを受け取っていた。
午、堂の帳面をき、子と緒に数字を並べた。米代、魚代、灯油代、賃。の建物は炭鉱の持ち物ではなかったが、は借りている。を閉めても賃は残る。
「お母ちゃん、これ、全部返ってくるとう?」
子がツケの欄を指した。
「返すつもりはあるたちばっかりよ」
「つもりと、おがあるかは別やろ」
その通りだった。子はそろばんを置き、別のにの現をまとめた。何も仕入れなければしばらく暮らせる。けれど、をけ続けると、は減るばかりだった。
「お母ちゃん。護婦の学の話、いったんやめるけん」
「なんで」
「私がやめたら、兄ちゃんにおを回せるやろ」
「子まで、勝に決めんで」
私はわずく言った。子は驚いた顔をした。
「お父ちゃんもも、勝に決める。あんたまで自分のき先を捨てることなか」
「でも、どうするん」
答えはなかった。私は流しの横に置いた名刺を見た。品会社の名は「佐伯品」。は倉のれにあるらしい。
その夜、子はのことをもうし話してくれた。、学の友達が肺炎で入院したとき、見いにった病院で、忙しそうにく護婦の姿を見たのだという。
「先より先に、護婦さんがその子の変化に気づいたんよ。お母さんも、すごくしとった。私、ああいう仕事をしたい」
「勉は変よ」
「っとる。だから、今から準備したいんよ」
子は教科のから、学の先に借りた入学案内をした。の端が何度も折られていた。娘は、私たちが閉の話ばかりしているにも、自分のき先を探していたのだ。
私はその夜、の残りのをもう度数えた。子の入学案内を帳面の横に置くと、数字のが変わって見えた。を守るためのだけではない。まだ始まっていない娘の暮らしにも、がる。
翌朝、堂を昼まで休みにして、職業定所へった。窓は炭鉱帰りの男たちで混んでいた。を過ぎた男が「み込みでもいい」と言うと、係員は困ったように求票をめくっていた。
私の番が来て、佐伯品の名をすと、係員は話で確かめてくれた。
「調理の経験はありますか」
「、堂をしよります」
「の仕事は、とは違いますよ。まず見学と試験になるそうです。来週の曜、けますか」
私は返事をするに、待を見た。昭吉と同じくらいのの男たちが、番号札を握って座っていた。自分だけ先に仕事を探すことが、ひどくろめたかった。
それでも、私は言った。
「きます」
帰宅すると、のにがっていた。
作業着のまま、腕を組んでいる。
「母ちゃん。来週、町のみんなで集まる。を貸してくれんか」
「何くらい」
「くらい。夜のから」
来週の曜。の試験から戻るころには、もう準備を始めなければならない。
「わかった。にけとく」
は初めてしだけ表をゆるめた。
私は、へくことを言いそびれた。