"「寄付は千円ぽっち」笑われた老夫婦の30年の秘密" 第4話
の募箱とされた役
季節は巡り、に入った。
の赤い羽根共同募の運が始まると、婦会の会員が交代で駅のロータリーにち、募箱を持って呼びかけをうのが毎の恒例だった。
そのの当番は、私と、蛇川会、そして会計の根岸さんのだった。
肌寒いが吹き抜ける、駅をき交う々に向かって「ご協力をお願いしまーす」と声を張りげる。
ふと、蛇川さんが私の元の募箱を横目で見ながら、わざとらしい声で囁いた。
「静子さんは、箱を持つだけで、ご自分では入れないんでしょうねぇ。ねぇ、根岸さん?」
「会ったら、そんな……でも、そうかもしれませんね。静子さんはお財布の紐がとてもお固い方ですから」
は顔を見わせて、クスクスと肩を揺らした。
通りかかった会社員が、怪訝そうにこちらをちらりと見て通り過ぎていく。私は何も言い返さず、ただ両で抱えた募箱のみを確かめるように持ち直した。
その、ランドセルを背負ったさな男の子が、ってやってきた。さなのひらには、円玉がぎゅっと握りしめられていた。
「ぼく、ありがとうね。偉いわねぇ」
蛇川さんが満面の笑みで箱を差しすと、男の子はし照れくさそうにチャリンと円玉を落とし、元気に駆けっていった。
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私はそのさな背が見えなくなるまで、ので「ありがとうね」と見送った。
その週の定例会で、蛇川さんが誇らしげに全員のでをいた。
「皆さん、聞いてちょうだい。今はが婦会が創周を迎える記のです。には、公民館の会議で記式典をきます。そしてね、記事業として、恵まれない子どもたちの学を支える育英基へ、会から万円を寄付することに決めました!」
座敷の奥さんたちから、「まあ、素らしいわ」「さすが会さんね」と拍が湧き起こった。
「式典には、その基の事務局の方をお招きして、謝状をいただくはずになっています。町の広報誌にも、が婦会の名がきく掲載されるのよ!」
私の胸が、トクンとさくねた。
蛇川さんがにしたその基の名は、がの茶箪笥の引きしにある、あの茶封筒に印刷された名と、まったく同じだったからだ。
「そこでね、会員の皆さんには千円ずつのご寄付をお願いしたいの。残りは会の積からしますから。……静子さんも、もちろんしていただけるわよね?」
試すような線を向けられ、私は迷わず財布からつ折りの千円札を枚取りした。
「蛇川さん、もちろんです。会のおですから、んでおしします」
すんなりと千円をした私を見て、蛇川さんはし肩透かしをらったような、満そうな顔をした。
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「あら、珍しく素直にすのね。町の広報に名が載るんだから、静子さんも会員でいてがいでしょう」
それから数の夕暮れ、根岸さんががの玄関先にやってきた。
「静子さん、急にごめんなさいね。式典のことで、ちょっとおに入れたいことがあって……」
「根岸さん、どうぞがってください。今、温かいお茶を淹れますから」
「いいのよ、ここでち話で済ませるから」
根岸さんは玄関のがりかまちでを振り、周囲を気にしながら声を落とした。
「あのね……式典の受付と、記誌の宛名き、静子さんにお願いする予定だったでしょう? 静子さん、昔から毛もペン習字もおだから。でもね……会がおっしゃるのよ。『受付は会の顔なのに、あのボロボロの自転で来られると、来賓の方々に示しがつかない』って。お祭りの千円の貼りのことも、皆さんごですしね……」
根岸さんは私と目をわせようとせず、申し訳なさそうに線を泳がせた。
「根岸さん。それは、私では会の恥になる、ということでしょうか」
「そこまでは言ってないわよ! ただ、町さんや基の偉い方もいらっしゃるから、しは体裁を考えてほしいってことなのよ。悪くわないでね、私も会のことをって言ってるんだから」
私は静かに息を吸い込み、穏やかに微笑んだ。
「分かりました。
決めるのは会さんですから、私は会の指示に従います。わざわざ教えてくださってありがとうございました」
根岸さんがそそくさと帰っていくと、奥の引き戸がき、勉が静かにっていた。
「……聞こえてたか?」
「ええ。あなた、最いつもそれですね」
勉は困ったようにさく笑い、それからぽつりと言った。
「静子、受付、やりたかったか?」
「いいえ。ただ……周の記誌の宛名きだけは、し残でした。お世話になった町内の皆さんの名を、丁寧にいて差しげたかったんですけれどね」
「そうか」
勉はそれ以何も言わなかった。
その夜、私は婦会の名簿を机のに広げた。分の会員の氏名と所。から毎、私が青黒い万のインクで、ひとりを込めてき直してきた名簿だった。
その文字を指先でなぞりながら、私は引きしからもう通のを取りした。
に届いた。
『この、第志望の学に格することができました。 格発表の画面を、母とで何度も抱きって見直しました。母は「お父さんに見せたかったね」と、晩仏壇ので泣いていました。 毎送ってくださる温かいお遣いに、どんな言葉でお礼を申しげればよいか分かりません。 同封していただいた綺麗な桜の記切でお返事をそうとったのですが……あまりにもったいなくて、どうしても使えませんでした。
僕の宝物として、切にお守りにしています』
勉が背から、の文面にそっと線を落とした。
「……切、使えばいいのにな」
「あなた、そういうところ、あの子は私に似ているんですよ。『もったいないから使えない』って」
「静子に似たら、苦労するぞ」
「あら、どういうですか?」
勉は答えず、湯呑みのお茶を静かにみ干した。その横顔には、ほんの微かに、誇らしげな笑みが浮かんでいた。