"「寄付は千円ぽっち」笑われた老夫婦の30年の秘密" 第2話
褪せたチェーンとの丸
私、静子は今で歳になる。夫の勉と、築を超える古い平で慎ましく暮らしている。
うちにはがない。あるのは台の自転だけだ。、勉がの主任に昇した記に、夫婦で相談して所の自転で買ったものだった。私のが青で、勉のが緑。どちらも何度もペンキを塗り直し、タイヤを交換しながら乗り続けてきたから、もはや元の鮮やかなは見るもなく褪せてしまっている。
そのの、公民館ので婦会のの定期総会がかれたのことだった。
「では、今のの親睦旅は、県の温泉旅館に泊ということで決まりました。よりしお料理のグレードをげましたからね。皆さん、楽しみにしてくださいね」
座に座る蛇川会が、元の資料をトントンと揃えながら朗らかに告げた。
「あの……蛇川さん」
私が座の隅から恐る恐るを挙げると、座敷の線が斉にこちらへ集まった。
「お声をかけていただいて変ありがたいのですが、私は今も慮させていただきます。皆さんでゆっくり楽しんできてください」
「あら」
蛇川さんの眉が、ピクリとねがった。
「静子さん、またお断りになるの? も昨もそうだったわよね。の旅だけじゃないわ、お正の会もお見も、全部『もったいないから』って参加。
広告
お祭りの寄付だって毎番ないし……静子さんって、本当におを使わないなのねぇ。そんなに貯め込んで、どうなさるつもり?」
「ケチなのかしらねぇ」と、誰かがさく呟いた。
座敷のあちこちから、忍び笑いがさざ波のように広がっていく。
会計係を務めている根岸さんが、蛇川さんの嫌を伺うようにを挟んだ。
「会、静子さんにもご庭の事があるんですよ。でも、たまには息抜きにご緒できたら嬉しいですけれどねぇ」
フォローしているようでいて、その実、蛇川さんの向を汲んで私を回しに責めるような言い方だった。根岸さんは昔から、蛇川さんの顔を読むのがとてもなだ。
すると、隣に座っていたトメさんが、ドスンと座布団のに拳を置いた。
「蛇川さん、静子ちゃんは昔から無駄遣いが嫌いな性分なんだよ。『もったいない』が癖なのは、私がから番よくってるさ。がどうを使おうと、誰にも迷惑をかけちゃいないだろうに」
「トメさんがかばうのは勝ですけどね」蛇川さんは扇子をパチンと閉じた。「会の親睦事なんですから、しは協調性というものを持っていただかないと困るのよ」
総会がおきになり、靴を履いてにると、トメさんが私の袖をそっと引いた。
「静子ちゃん、気に病むんじゃないよ。
広告
きたくない会なんて、無理してかなくていいのさ。私は温泉が好きだからホイホイくけどね」
「トメさん、ありがとうございます。旅はとても素敵な楽しみですもの。く方を悪いなんて、これっぽっちもっていませんよ」
「静子ちゃんは、そうやって悪を言われても絶対に言い返さないねぇ。私はそういうあんたの真っ直ぐなところが、昔から好きなんだよ」
トメさんと別れ、自転を押して砂利を歩いた。ペダルを踏み込むと、キュルキュルと乾いたさな音が鳴った。
に帰り、台所の壁に掛けてあるカレンダーに目をやる。
毎の数字のところにだけ、赤いまん丸の印がついている。
このに、私と勉が何をしているのか。もの、所のにはもちろん、親戚にすら誰として話したことはなかった。
そのの晩、夕飯の支度を終えて、焼き魚とほうれんのお浸しを並べたちゃぶ台を囲んだ。
「あなた」
「ん?」
「今、婦会の総会でね、蛇川さんに『ケチなのかしら』って言われちゃいました。みんなので」
勉は箸を止め、しだけを置いてから言った。
「……そうか」
「でも、本当のことですものね。旅にはかないし、自転はのままだし」
「静子、気になるか?」
勉がじっと私の目を見た。
「いいえ。ちっとも。ただ、トメさんが『言い返せばいいのに』って悔しがってくれたのが、なんだか申し訳なくて」
勉はふっと目尻をげ、噌汁をすすった。
「トメさんらしいな。……それより、静子の自転、チェーンがし伸びて緩んできてるぞ。にでも油を差して、張り直しておく」
「ふふ、しいのを買おうかって度も言わないところが、あなたらしいですね」
「まだるだろう。乗れるものを捨てるのは、もったいないからな」
「ええ、本当にもったいないですものね」
のに、いつもの静かで穏やかな空気が流れた。