"「寄付は千円ぽっち」笑われた老夫婦の30年の秘密" 第1話
祭りの貼りと台のペダル
のい差しが、アスファルトの照り返しとなって元からちのぼっていた。
町内会の祭りの初。公民館の入りの掲示板のには、だかりができていた。いきな模造に、太いの文字でかれた『祭り御寄付芳名録』の貼り。町内の々がした寄付の額と名が、額のい順にからずらりと並んでいる。
番に堂々と掲げられているのは、ひときわ太い文字の『万円 蛇川様』。
そして、番——隙を埋めるようにさくかれていたのが、『千円 静子様』だった。
「あら、見てちょうだいよ。番」
クスクスと忍び笑う声が、掲示板のにいた婦会の面々から漏れた。
輪のにっていたのは、現職の婦会である蛇川(へびかわ)さんだった。町の名の娘さんで、くなったお父も町の世話役を務めていた名士だ。仕ての良い麻のブラウスを着て、には価そうな扇子を優雅に揺らしている。
「ボロボロの自転に乗ってやってきて、寄付が千円ぽっちだなんてねぇ。ケチにも程があるわよ。町内の恥だとわないのかしら」
周りにいた、の主婦たちが、調子をわせて元にを当てて笑った。
私は何も言わずに、乗り続けている青い自転のハンドルを握り直した。
広告
グリップのゴムはすっかりすり減り、カゴの針にはところどころ赤茶の錆が浮いている。
すぐろで、夫の勉(つとむ)が同じように古い緑の自転を押してっていた。勉は勤めたを定退職し、今は所の公園の清掃の仕事をしている。無で、を表にすことが滅にないだ。
勉は蛇川さんたちに向かって、声もさずにさくをげた。
そして、貼りの方には度も目を向けようとせず、まっすぐだけを見ていた。
この貼りので、夫が決して顔をげない本当の理由をっているのは、世界で私だけだ。
「いいこと、静子さん」
蛇川さんが、扇子で胸元をパタパタと仰ぎながら、から見ろすような線を投げかけてきた。
「様の役につおっていうのはね、名と額をこうして表にしてこそなのよ。うちの父がいつも言っていたわ。『名をすのは、域に対して責任を持つ証拠だ』ってね。静子さんみたいに銭を惜しんでるが、様の子どもを助けるなんて、がひっくり返ってもあり得ないわよ」
取り巻きの奥さんたちが、もっともだと言わんばかりに頷きう。
「もしそんなことがあったら、私、そのので座してをげてあげるわ」
蛇川さんは自分の言葉にすっかり満したように、ふふんとを鳴らした。
広告
「ご主も変ねぇ、こんなケチな奥さんをもらっちゃって」
勉は何も言い返さなかった。ただ、私の方をちらりと見て、目元だけで「くぞ」と図をくれた。
だから、私も余計な言葉は呑み込み、静かにをげた。
その、垣をかき分けての柄なおばあさんが歩みてきた。
「蛇川さん、よしなよ」
軒先にむ幼馴染で、御になるトメさんだった。腰はし曲がっているが、目つきは誰よりも鋭く、ったことをズケズケと言う町のご見番だ。
「お祭りのめでたいに、そんな野暮な話をするもんじゃないよ。せっかくの酒がくなるじゃないか」
「あら、トメさん。私は本当のことを言ったまでよ。名を見れば、誰がどれだけこの町をっているか目で分かるでしょう?」
「へっ、をした名のきさでの値打ちが決まるんなら、世のの坊主はみんな聖君子だね」
トメさんはで笑うと、私の腕をぐいっと引っ張った。
「静子ちゃん、こう。あっちで綿あめでもべようじゃないか。私がおごってやるよ」
「トメさん、ありがとうございます。でも綿あめはもったいないから、半分こにしましょうか」
私がそう言うと、トメさんは目を丸くしたあと、吹きすように笑った。
「またそれかい! まったく、静子ちゃんには敵わないねぇ」
カラカラと笑うトメさんに引っ張られながら、私は勉と目をわせた。
勉はしれたで、台の自転のハンドルをしっかりと握り、静かに待っていてくれた。