"144枚の給与明細" 第9話
机の名刺と崩れ落ちた男
テーブルのに置かれた名刺の文字を、藤の目が捉えた瞬。
その顔から、まるで潮が引くようにサーッと血の気が引いていった。
『限会社ミヤビ精 代表取締役 藤勝則』
黒々と印刷されたその活字をに、藤の喉仏がに激しくいたが、声は切てこなかった。
「……藤専務。あなたが先、都自の佐々部の宿泊先へ直接向き、『精密を通さず、私の会社と直接取引してくれ』と売り込みにかれた際にお渡しになった名刺です」
俺が静かに告げると、会の奥にある応接セットの引き戸が、静かにいた。
から姿を現したのは、都自の佐々部だった。
「さ、佐々部……!? な、なぜここに……」
藤の膝がガクガクと震え始めた。
佐々さんはゆっくりと歩み寄り、テーブルのの名刺を見ろした。
「違いありません。藤専務、あなたから直接、私ので受け取った名刺です」
佐々さんの声には、刃物のような鋭さが宿っていた。
「その、あなたはおっしゃいましたね。『宮はもう現をした。作業で磨く代は終わり、これからは私の会社を通じてからく仕入れるのが番だ』と」
藤は額から滝のような油汗を流し、息を呑んだ。
「それから藤専務。隣の部まであなたの鳴り声が筒抜けでしたが……億円の損害賠償が宮さんの責任だというのは、筋違いもだしい」
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佐々さんは歩、藤に詰め寄った。
「宮さんは今まで、精密業の社員です。契約に記された『宮氏を仕げ責任者とする』という条項を勝に破り、入れもされていない粗悪な型を送りつけて量産ラインを止めたのは、でもないあなただ。契約違反の全責任は、精密業、そして専務であるあなた個にあります」
藤の唇がに変し、カタカタと音をてて震え始めた。
佐々さんは会に向き直り、きっぱりと言い放った。
「が社が精密と百億円の契約を結んだのは、御社の板を信用したからではありません。宮さんのその指先を、職としての腕を信用したからです」
会に、張り詰めた沈黙が落ちた。
藤が張り巡らせていた悪事の全容が、のもとに晒されていた。
から宮の昇分をミヤビ精へプールし、その資での設備を買い揃え、さらに会社の億円を払いとして吸いげたあと、精密を億円の負債で破滅に追い込み、自分だけが都自の巨な利権を丸ごと奪い取る——。
だが、欲に目が眩んで先った単独の売り込みが、自の逃げを完全に塞ぐ決定打となったのだ。
俺は藤の目をまっすぐに見据え、静かにをいた。
「藤専務。
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あなたは、着任のに『職はコストだ』とおっしゃいましたね」
藤の肩がピクリとねた。
「コストを削ったつもりで、会社に億円の違約を背負わせました。そして、あなたが削ったはずの俺の料は、あなたの懐に入っていた」
藤のが魚のようにパクパクといたが、言葉にはならなかった。
俺はもう度、く、力い声で問いかけた。
「では、もう度伺います。……俺の分、誰が受け取っていたんですか?」
「あ……ああ……」
藤の膝から力が抜け、ドサリと絨毯のに崩れ落ちた。
胸ポケットから滑り落ちたの級万が、虚しい音をててを転がっていく。
会がゆっくりとちがり、徹な声で言い渡した。
「藤。本付でおを懲戒解雇とする。ミヤビ精へ流した千百万円は、個資産を差し押さえてでも全額回収する。退職など円もさん。顧問弁護士を通じて、特別背任および横領で刑事告訴の続きに入る」
「ま、待ってください、会! 私は会社のためをって……!」
「会社のためをうが、会社のを自分のダミー会社に流すか!」
会の号が部に轟き、藤は両をについたまま、完全に平伏した。
佐々部は藤を瞥することもなく、ややかに告げた。
「ミヤビ精との取引は、輪際お断りします。
……それから会」
佐々さんは会に向き直り、つの条件を提示した。
「宮さんと藤さんは、来からが社のしい型技術拠点へ移籍していただきます。宮さんたちが精密をれ、藤専務を刑事告訴して完全に経営から排除するのであれば、今回の億円の違約は、実損分である億円にまで減額し、分割での返済を認めます。の既部品の取引も、継続いたしましょう」
会はく、くをげた。
「佐々部……ありがとうございます。何とお礼を申しげてよいか……」
こうして、藤が築きげようとしていた欲な砂の楼閣は、瞬にして音をてて崩壊したのだった。