"144枚の給与明細" 第8話
招集された会
佐々さんとの面談から。
俺と藤のスマートフォンに、同に会からの招集連絡が入った。
『本午、会へ来てほしい。藤専務同席のもとで、すべての清算をう』
精密業の本社ビルは、正面玄関をくぐった瞬から異様な緊張に包まれていた。すれ違う社員たちの顔は様に張り、声で囁きっている。都自からの億円の違約請求という激震は、すでに社内にれ渡っているようだった。
エレベーターで最階へがり、な会の扉をノックする。
「入れ」
に入ると、きな革張りソファの真んに、青ざめた顔の藤専務が腰掛けていた。
いつもパリッと糊のきいていたスーツの襟元はわずかに緩み、目のには黒々とした隈が張り付いている。俺たちの顔を見た瞬、藤は弾かれたようにちがり、々とをげてきた。
「宮君、藤君……! 来てくれたか!」
顔をげた藤の瞳は血り、声は必に媚びを売るように震えていた。
「頼む、戻ってきてくれ! 君たちの退職届は、私が預かってまだ処理していない! 宮君、君のは来から百万円す! 当も特別につける! だから、都自の佐々部に、君のから『違いだった、すぐに磨き直す』と伝えてくれないか! 君から頼めば、億円の違約も取りげてもらえるはずなんだ!」
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万円から、いきなり百万円へ。
、俺の料から毎千万円くを抜き取り続けてきた男が、今度はその汚れたで俺を釣ろうとしている。
俺の元に縋り付かんばかりの勢いだったが、そのからてくるのは「会社のため」でも「俺への謝罪」でもなく、ただただ「契約を取り戻して自分の首を繋ぎたい」という保の言葉だけだった。
デスクの奥に座る会もまた、苦渋に満ちた表で俺を見つめていた。創業の会社が億円という巨額の負債で倒産寸に追い込まれ、何とかこのを収めたいという藁をも掴むいが、その瞳に宿っていた。
かつての俺なら、会のそのり切った姿を見ただけで、にほだされて首を縦に振っていたかもしれない。
だが今の俺の胸のは、たいが吹き抜けたのように、驚くほど静かに澄み切っていた。
「お断りします」
く、切の迷いを含まない声で告げた。
藤の顔が、瞬で歪んだ。
「な……何だと……!? 百万でもりないというのか! の職に、これ以の破格の条件がどこにある!」
「の問題ではありません」
「ふざけるな!」
藤はのひらを返し、剥きしのりで俺を指差した。
「おたちが勝に職を放棄したせいで、会社は億円の違約を背負わされたんだぞ! 現の責任者が職務を放棄して取引先をらせたんだ、損害賠償で訴えてやるからな!」
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その、俺の隣にっていた藤が、バンと音をててセンターテーブルに歩み寄った。
「いい加減にしろ、藤!」
普段、誰に対しても敬語を崩さず、声を荒らげたことのない藤の声が、会の空気を激しく震わせた。
藤は鞄のから分いファイルの束を取りし、ガラステーブルのに叩きつけた。
「宮の料をも横領しておいて、よくもそんなが利けたものだな!」
テーブルのに散らばったのは、ミヤビ精への過にわたる技術指導料の支払伝票のコピーだった。総額千百万円に及ぶ送の記録。
だが、藤はその類を瞥すると、でせせら笑った。
「経理課ともあろう者が、ずいぶん粗末な言いがかりをつけるものだな。ミヤビ精は、私の代の元部が経営している独した会社だ。登記簿を見てみるがいい、私の名などどこにも載っていない。元部の会社へ正当な業務委託費を支払っていただけで、横領などという事実は切しない!」
藤は勝ち誇ったように顎をしゃくり、藤を睨みつけた。
「それより藤君、社秘の会計類を勝に持ちしたな? これはな務規律違反だ。懲戒解雇処分になれば、退職など円もないぞ!」
「記録を洗えと命じたのは、この私だ」
デスクの奥から、会がくい声で割って入った。
「藤専務。おは、ミヤビ精は宮君の個会社であり、彼への昇分をそこへ振り込むのだと、私に直接報告したはずだ」
藤は眉つかさず、首を傾げてみせた。
「そんな報告をした覚えはありませんね。会の記憶違いではありませんか? ののやり取りなど、証拠もなしに持ちされてはです。当の稟議にも、『技術指導料・限会社ミヤビ精宛』としかかれていませんよ」
藤は嘲笑を浮かべ、会に向かって歩詰め寄った。
「会社に尽くしてきた専務を、寄りのい込みとこんな切れ枚で疑うおつもりですか? それならこちらも弁護士をてて、名誉毀損で争わせてもらいますよ!」
会は唇を噛み締め、悔しさに顔を歪めて押し黙った。
の藤は、法律と類の隙を完璧に突いていた。登記、自分の名を切さず、の約束だけで会を騙し、帳簿のでは法な注費として処理させていたのだ。
決定な証拠がない。
藤のら笑いが、会の空気を支配しかけたそのだった。
俺は静かに歩みると、着の内ポケットから通のい封筒を取りした。
そして、そのから取りした枚の名刺を、藤の目の——ガラステーブルのど真んに、音もなく置いた。