"144枚の給与明細" 第4話
百枚のと暴かれた
翌朝の午過ぎ。
カーテンを閉め切った畳のアパートで、宮はやかんで湯を沸かし、インスタントコーヒーを淹れていた。ぶりに訪れた「勤しなくていい朝」の静けさに、まだ体が慣れていなかった。
突如として、玄関の古いブザーがジリジリとけたたましく鳴り響いた。
「宮! 宮君、いるのか!」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、酷く取り乱した老の声だった。
鍵をけてドアを引くと、そこには息を切らし、肩を激しくさせた会がっていた。運転も連れず、自らをばしてきたのか、コートの裾は乱れ、髪交じりの髪が額に張り付いている。
「か、会……どうしてここに」
「どうしてじゃない! 今朝、総務からおが退職届をしたと連絡が入ったんだ!」
会は靴を脱ぐのももどかしそうに玄関のがり框に踏み込み、宮の両肩を鷲掴みにした。その瞳は激しく揺れ、声はりと困惑で震えていた。
「宮君、体どういうことだ! ……収千百万円じゃ、りないというのか!?」
宮は瞬、自分のを疑った。
「……はい? 今、何とおっしゃいましたか」
「収千百万円だよ! おほどの腕を持つ職に、相応の待遇を用してきたはずだ! それが満で、藤専務と揉めて会社を辞めるというのか!?」
収千百万円。
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宮のにおいて、度たりとも縁のなかった途方もない数字だった。
宮は何も言わず、部の隅にあるさな押し入れをけた。奥から引っ張りしてきたのは、古びた缶のビスケット箱だった。
蓋をけ、から几帳面に束ねられたのを取りす。
「会、そこに座ってください」
宮はちゃぶ台のに、そのの束を端から順に並べていった。
枚、また枚。入社したのから、先支されたものまで、度も捨てずに保管していた与細、全百枚。
「これを見てください」
会はおそるおそる老鏡をかけ、番に置かれた先の細をに取った。
『基本:190,000円』 『役職当:0円』 『技術当:0円』 『差引支額:164,200円』
会の指先がピクリと止まった。次のの細をめくる。、、、——どのを見ても、印字されている基本はまったく同じ「万円」だった。当の欄には、ただの度も数字が入ったことがない。
百枚の細が、ちゃぶ台のを隙なく埋め尽くしていた。
「……な、何だこれは……? どうして万円なんだ……?」
会の顔から、急速に血の気が引いていくのが分かった。元のを持つが、刻みにガタガタと震えている。
宮はややかな目で会を見つめ、静かに問いかけた。
「では会。
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俺の収千百万円の残り——誰が受け取っていたんですか?」
「あ……あ……」
会は喉を詰まらせ、言葉を失った。
数分の苦しい沈黙の、会は絞りすような掠れ声で、驚くべき事実を語り始めた。
「……だ。都自の型トラブルを、おが泊まり込みで救ってくれたがあっただろう」
「はい。覚えています」
「あの、私は現へき、おに料を幅に引きげると伝えた。だがおは、『若い職たちの、自分だけ特別扱いされるわけにはいきません』と固辞した」
宮は頷いた。確かにそう言った記憶がある。
「その数だ。藤専務が私の部へやってきて、こう報告したんだ。『宮君と個に話しいました。職仲の、表向きの料をげることはできないが、彼が技術顧問を務めている個会社への技術指導料としてなら受け取ると言っています。現にられたくないそうなので、会からもこの件は宮君に触れないでやってください』とな……」
宮の眉がピクリとねた。
「個会社……ですか?」
「ああ。『限会社ミヤビ精』という会社だ。宮君の“宮”の字を取った個事務所だと聞かされていた。だから私は、おの収が実質千百万円になるよう、与との差額である百万円を、技術指導料の名目で毎ミヤビ精へ振り込む稟議に決済印を押し続けてきたんだ……!」
百万円。にわたって支払われ続けたその総額は、千百万円にものぼる。
宮は呆れ返って、りすら通り越して乾いた笑いが漏れそうになった。
「会。俺はミヤビ精なんて会社、今初めてにしましたよ」
「……っ!」
会の顔が、今度こそ完全に気に染まった。
昇を辞退した宮の誠実な言葉すら、藤は自分の横領作の具として利用していたのだ。
会は震えるでポケットから携帯話を取りすと、そので経理課の藤へ話をかけ、叫ぶように命じた。
『藤君か! 今すぐミヤビ精への過の支払い記録と、契約の原本をすべて洗いせ! 専務には切悟られるな!』