"144枚の給与明細" 第3話
辞令のペン先とえ切った退職
あの良品騒からが経過した、の終わりのことだった。
のたいがの根を叩くの夕方、宮は内線話で専務へ呼びされた。
な革張りのドアをノックしてに入ると、藤専務はデスクに肘をつき、ややかな笑いを浮かべて待っていた。の屈辱などすっかり忘れたかのように、仕ての良いグレーのスーツを着こなしている。
「宮君、座りたまえ」
宮がパイプ子に腰掛けると、藤は胸ポケットからの級万をゆっくりと抜き取り、デスクの央に置かれた枚のい類をペン先で叩いた。
「単刀直入に言おう。来から、当社の型製造はすべてアジアの提携へ全面移管する。設計から最終加まで、すべて最のフルオートメーションでうことになった」
宮は静かに藤を見つめ返した。
「作業による仕げ程は、どうするんですか」
「そんな昭の遺物のような程はすべて廃止だ」
藤は馬鹿にしたようにで笑った。
「寸法公差など、今の最鋭作械ならコンマ数ミクロン単位で完璧にせる。わざわざい件費を払って、でチマチマと磨く必などどこにもないんだよ。というわけで、君には付で仕げ班をれ、本社裏の資材倉庫へ異してもらう。
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庫の理とピッキング作業だ」
ペン先が指し示した類には、『事異通』の文字と、宮の名、そして『資材管理課付を命ず』という無な文が印字されていた。
歳になる熟練の仕げ職に、倉庫の荷物運びをやれというのだ。骨な追いし部への遷だった。
宮はを荒らげることなく、く落ち着いた声で返した。
「都自との基本契約では、仕げ責任者の変更には取引先の事の面承認が必なはずです。佐々部にはお話しされたのですか」
「ふん、契約の文にいつまでもすがりつくな」
藤は忌々しそうに顔をしかめた。
「向こうには、で作った試作品を納めて納得させれば済む話だ。『職の作業を廃止して理化に成功した』とプレゼンすれば、コスト削減にうるさい都自がばないはずがないだろう。……それとも何かね? 君がいなければが作れないとでも言いたいのか?」
藤の目は、底れない悪に満ちていた。
「ついでに言っておくがね、先の予算会議で私の方針にケチをつけてきた経理課の藤君も、そろそろの振り方を考えてもらうことになっている」
「……藤を?」
「への設備投資の払い億円について、『試作の検収も終わっていない段階での送はリスクがすぎる』などと、気にも私の決済に待ったをかけてきたからね。
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経営のを引っ張る無能な課など、うちの会社にはなんだよ」
ので、の記憶が鮮やかに蘇ってきた。
の油の匂い、指先の皮膚が破れるほどの激痛、徹夜続きで朦朧としながら研磨を握りしめ続けた。そして、着任初に藤が吐き捨てた『職はコストです』という酷な言葉。
この男は何も変わっていない。
会社を支えてきた現の汗も、仲たちが流してきた涙も、すべて自分の世と保のための踏み台としか見ていないのだ。
胃の底がすっとたくなり、張り詰めていたの糸が、音もなく静かに千切れるのをじた。
宮は静かにちがると、胸ポケットから青いストラップのついた社員証をした。
そして、机のの辞令のの真に、そっとねて置いた。
「……何だ、それは」
藤が審そうに目を細めた。
「退職させていただきます」
その言がた瞬、藤の目が丸くなり、半きのがそのまま固まった。部のに、信じられないほどの静寂が落ちる。
「……は? た、退職だと……? 何を寝言を言っているんだ!」
に返った藤が、机をバンと叩いてちがった。
「万のしがない職が、今さら辞めてどうする気だ! を過ぎてにきがあるとっているのか! 世はおがっているほど甘くはないんだぞ!」
宮はそれ以、何も答えなかった。
ただ言、「お世話になりました」とをげると、背から浴びせられる藤の声を背に受けながら、専務のドアを静かに閉めた。
そのまま総務課へを運び、あらかじめ用してあった退職届を提した。、度も使わずにまるまる残っていた休暇を消化するため、退職までの約ヶ、から切社しない旨を告げて会社をた。
たいのがる夕暮れのを、傘も差さずに歩きながら、宮は自分のをじっと見つめた。
守り続けてきた所を、あっけなく失った。
だが議と、悔のは微も湧いてこなかった。