"姑から受け継いだしゃもじ" 第7話
しゃもじを受け取った
しゃもじを渡された翌朝、ふみはいつもよりく起きた。これまでと同じように、かまどにを入れ、米をとぐ。けれど、台所の戸棚をけたとき、並んでいる具がいつもと違って見えた。
噌の置き所も、漬物の樽の蓋も、いをかけて覚えたものだ。に来たばかりの頃は、何をどこに置けばいいのか分からず、としに聞くたびに「そこじゃない」と言われた。今では、族の好みも、季節ごとの保の作り方も、ふみのに馴染んでいる。
「今の噌汁、しいね」
朝の席で、としが言った。ふみは瞬、昔のように構えた。
「すみません。もうし噌をします」
「いや、これくらいでいいよ。最は塩分も気にした方がいいって、ラジオで言ってたからね」
としはそう言って、汁椀を置いた。ふみはわず笑った。嫁入りした頃なら、としのひと言だけで自分の失敗だとい込み、何度もを確かめていただろう。
も、台所を任されたふみの様子を気にしていた。
「母さん、もうをさないのか」
「必なことは言うよ。でも、台所はふみに任せる。私も、いつまでも全部決めるわけにはいかないからね」
としは淡々と答えた。ふみはその言葉を聞きながら、しゃもじを事に布巾で拭いた。
季節が巡り、農作業の順も変わっていった。
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械が増え、田んぼの仕事は以よりいで終わる。の若いは町へて、農業を続けるはしずつ減っていた。としは、そうした変化を寂しがることもあった。
「昔は、田植えの期になるとがにてたのにね」
「今は械でく終わりますから」
「楽になったのはいいことだけど、が集まることも減ったね」
ふみは、姑の言葉にうなずいた。便利になった分、失われるものもある。けれど、昔の苦労をそのまま次の世代に背負わせる必はない。ふみは、そう考えるようになっていた。
正が盆休みに帰ってきたとき、でのんびり過ごしている姿を見て、としは「会社勤めも変だろう」と声をかけた。幸子も、い休みになると帰ってきて、都会の話を聞かせてくれる。
「京はがくて、駅のでも迷いそうになるよ」
「そりゃあ変だ。うちのなら、に迷ってもを見れば戻れるからね」
としは冗談めかして笑った。をた子どもたちを責めず、帰ってきたときには温かい事をす。ふみは、としのそんな姿を見て、嫁に来たばかりの頃よりもずっと柔らかなになったとった。
ある晩、ふみが台所を片づけていると、としがそっと入ってきた。
「しゃもじ、使いやすいかい」
「はい。毎使っています」
「そうか。あれは私が嫁に来たとき、の姑から渡されたものなんだよ」
「お義母さんも、受け取ったんですね」
「そう。あの頃は、ただ渡されたものを使うだけだった。なんて考えなかったね」
としは、ふみの元を見つめた。
「でも今は、あんたに渡せてよかったとってる」
ふみは、返事の代わりにしゃもじを置いた。のには、もう以のようなさはなかった。