"姑から受け継いだしゃもじ" 第6話
それぞれの
昭代に入ると、正はを卒業し、町の会社に勤めることになった。ふみは息子の就職先を聞いたとき、うれしさと寂しさが緒にこみげてきた。の農業を継ぐものだと、どこかでっていたからだ。
「会社勤めがしたいんだって?」
が尋ねると、正はし緊張した顔でうなずいた。
「農業が嫌いってわけじゃないよ。でも、町で働いてみたいんだ」
ふみは、すぐには返事ができなかった。としは黙って茶をんでいる。昔のなら、男がを継ぐのが当たりだった。けれど、ふみは正の気持ちを押さえつけたくなかった。
「やってみたらいいよ。自分で決めたことなら、頑張れるから」
「母さん、ありがとう」
正はしたように笑った。としは、息子の顔を見てからふみに目を向けた。
「ふみがそう言うなら、私も止めないよ。のことは、どうにかなる」
女の幸子は、京のへむことになった。からたことがほとんどない娘が、京で暮らしをする。ふみは配でたまらなかったが、幸子は目を輝かせていた。
「京って、テレビで見るよりきいのかな」
「もいし、最初は迷うかもしれないよ。困ったら、すぐ話しなさい」
「分かってる」
駅のホームで、ふみは娘の荷物を何度も確かめた。が来ると、幸子は父と母、祖母に順番にをげた。
広告
としは「体に気をつけるんだよ」と言い、ふみは何か言おうとして、結局「ってらっしゃい」とだけにした。
列がきす。幸子は窓からを振っていたが、やがて顔が見えなくなった。ふみは、ホームに残った正とを見た。とも、しばらく何も話さなかった。
に戻ると、いつもより静かだった。夕飯の支度を終えた頃、としが台所からふみを呼んだ。
「お茶をまないか」
ふみは、縁側に湯みを持っていった。は並んで座り、くのを眺めた。空が赤く染まり、畑の向こうで鳥が鳴いている。
「寂しくなるね」
としが言った。
「はい。でも、あの子が自分で選んだですから」
「そうだね。私たちも若い頃は、ここからたいとったことがあったね」
ふみは、としの横顔を見た。姑が自分と同じ気持ちを持っていたとは、しまで考えもしなかった。
「お義母さんは、ここをたいとったことがありますか」
「何度もあるよ。でも、なかった。られなかったのか、ないと決めたのか、今でも分からないね」
としは湯みを両で包んだ。
「ふみは、子どもたちに同じいをさせないようにしてるんだね」
その言葉に、ふみは何も答えられなかった。自分が正しいことをしているのか、確信はない。それでも、子どもたちには、自分で選ぶ余を残しておきたかった。
その、としは台所から古いしゃもじを取りした。毎使い続けて、持ちのがくなり、先には細かな傷がついている。
「これ、あんたに渡そうとって」
ふみは、しゃもじを受け取った。
「台所のことは、これからあんたがになって見ておくれ。もう私が全部決めることじゃない」
嫁に来てから数。ふみは、ようやくの台所を任された。