"竹林の向こうの白衣" 第11話
伐された林と作りの瓶
父の退院から半が過ぎた、爽やかな初の休のことでした。
私は軽自を運転し、あの懐かしい奥の元療養施設へと向かっていました。 施設そのものは予定通り昨で閉鎖されていましたが、敷の周囲にはが数台まり、の気配が漂っていました。
をりると、のから「カーン、カーン」という乾いた属音と、チェーンソーの唸り声が響いてきました。
坂を登り、かつてち入り禁止だった裏の林へとを踏み入れました。 その景を目にした瞬、私はわず息を呑みました。
あの暗く鬱蒼としていた林が、見違えるようにるくまれ変わっていたのです。
過密にい茂っていた古いが規則正しく引かれ、漏れが柔らかく面を照らしていました。 が届くようになった赤の斜面には、切り倒されたの根を活かした頑丈な留めが組まれ、かつての崩落の傷跡は綺麗に均されていました。
そして、切り株のからは、みずみずしい緑の若が、真っ直ぐに空へ向かって顔をしていました。
「……すごい」
が吹き抜けました。 シャラシャラと、の葉が擦れう音が響きます。 子どものころに聞いたあの音と同じなのに、今のその音は、まるで全体がんで呼吸をしているかのようによくに届きました。
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「おーい、危ないから入っちゃダメだよ!」
斜面のから、野太い声がってきました。 見げると、だらけの作業にヘルメットをかぶった男性が、ノコギリを腰にげて歩いてきました。
汗を拭いながらこちらを見たその男性が、ピタリとを止めました。
「……子」
兄のでした。 焼けした顔には無精髭がえ、腕には太い筋肉がついていました。 かつて神経質そうに数式を睨みつけていた面はなく、に根を張った職の顔つきになっていました。
「お兄ちゃん。……本当に、このを再させたんだね」
私が声をかけると、は照れくさそうにヘルメットを脱ぎ、を掻きました。
「ああ。あの物産展のあと、会社に企画をして、この放置林の備とメンマ化プロジェクトの担当にを挙げたんだ」 は斜面を見渡し、慨そうに目を細めました。
「放置されたは、密集しすぎて自分の首を絞めてを壊す。 でも、ので引いてを入れてやれば、翌にはこんなに派な若が芽吹くんだよ。 ……切ることでしか、救えない命もあるんだな」
の言葉が、私の胸に温かく染み込んでいきました。 は作業着のポケットにを入れ、さなガラス瓶を取りしました。
「これ……持っていってくれ。こので今初めて採れた若で作った、試作品第号だ」
渡された瓶のラベルには、マジックのきで、器用な文字がかれていました。
『子へ』
私は両で瓶を包み込みました。 ずっしりとしたみと、透き通るような琥珀のメンマ。
「ありがとう、お兄ちゃん。切にべるね」
「父さんと母さん、リハビリ順調らしいよ」 がぽつりと言いました。
「そう。良かった」 私はそれ以、両親の話題を広げようとはしませんでした。 もそれ以は何も言わず、ただ静かに頷いてくれました。
を吹き抜けるが、再び林をシャラシャラと揺らしました。 私たち兄妹は、もう昔の族には戻れません。 けれど、度断ち切られたからこそ、それぞれのでち、しい関係を築き始めているのだと、確信することができました。