"竹林の向こうの白衣" 第10話
病の懺悔と引かれた境界線
術からの午。 般病棟の個へ移った父の経過観察のため、私はカルテを抱えて病のドアをノックしました。
「失礼します」
引き戸をけると、ベッドのに半を起こした父が、ゆっくりとこちらを振り向きました。 ベッドの脇のパイプ子には、母がさくなって座っていました。
父の半の麻痺は劇に回復していました。 期に血流を再通させたおかげで、言葉の呂律もほぼ正常に戻り、自力でスプーンを持てるまでに回復していたのです。
「……先」 父の掠れた声が、静かな病に響きました。
私は歩み寄り、バイタルサインのグラフを確認しました。 「血圧、拍数ともに定していますね。の痺れはどうですか?」
「だいぶ……良くなりました」 父は震えるを見つめ、それから私のの裾を、おずおずと指先で掴んできました。
「先……いや、子」
ぶりに、実の父親から呼ばれた名。 けれど私のは、さざ波ひとつちませんでした。
「助けてくれて……本当に、ありがとう」 父の目から、粒の涙がポロポロとこぼれ落ち、シーツのに染みを作っていきました。
「俺は……あの、おをに置いていくのが正解なんだと、自分に言い聞かせていた。 ばかりを贔屓して、体のいおを厄介払いして……。
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都会にて、見栄を張って、自の息子を育てているつもりだった」
父の声は、激しい嗚咽に変わっていきました。
「でも、違ったんだ。全部、俺たちが違っていたんだ。 はプレッシャーに耐えかねて正にを染め、をてったきり連絡も寄越さない。 そして、俺がにかけたとき、その命を救ってくれたのは……俺たちが捨てた、おだった」
隣で母も、ハンカチを元に当てて声を殺して泣いていました。
「子……ごめんなさい。本当にごめんなさい……! 私たちが違っていたわ。の数字ばかり見て、あなたのさも優しさも、何も見ていなかった……! お願い、私たちを許して……また、族としてやり直させて……!」
母がちがり、私のを取ろうと縋り付いてきました。
私はそのを、ゆっくりと、けれど決して力を緩めることなく押し返しました。
「……お母さん。それはできません」
私の静かな拒絶に、母のきがピタリと止まりました。 父も濡れた目を見き、息を呑んで私を見つめました。
「私はもう、あなたたちの娘ではありません」 私はの目を真っ直ぐに見据え、淡々と告げました。
「私の親は、私を信じて育ててくれた之内先だけです。 あの歳の、いが坂をっていったあの、私とあなたたちの族としてのは、完全に終わったんです」
病に、苦しい沈黙が落ちました。
「でも、してください。私はあなたたちをんでいません」 私はさく微笑みました。
「むことすら、とっくに通り過ぎました。 今の私には、守るべき命と、誇りを持てる仕事と、温かな居所があります。 ですから……お父さん。の患者さんとして、リハビリを頑張って、元気になって退院してください」
それだけを言い残すと、私はく礼し、踵を返して病の扉にをかけました。
背から、母の泣き崩れる声と、父がシーツを叩いて慟哭する声が聞こえてきました。 扉がカチリと閉まった瞬、私の取りは羽のように軽くなっていました。 にわたって私を縛り付けていた見えない呪縛が、完全に断ち切られた瞬でした。