"竹林の向こうの白衣" 第4話
の恩師と、しい名
学を卒業する直、私は之内先の診察を訪れました。
「先、私、医学部へきたいんです。学費のかからない、自治医を目指そうとっています」
カルテをいていた之内先のが止まりました。 先は子をくるりと回転させ、私の顔をじっと見つめました。
「あの学はね、卒業してから、県が指定する僻や過疎の病院で働く義務があるのよ。って、代の青のほとんどよ。本当に覚悟はあるの?」
「あります」 私は迷いなく答えました。
「どうせ私、親に捨てられたですから。戻るもありませんし、誰にも頼らずにきていけるなら、なんていくらいです」
「……捨てられたわけじゃないでしょうに」 先は眉をひそめてさく呟きましたが、私の固い決に満ちた目を見ると、それ以は何も言いませんでした。
「それでね、先。私、にはかずに、検――卒認定試験を受けて、直接学受験を目指そうとうんです」
「い切ったわね」 先はふうと息を吐きし、窓のの林に線を投げました。
「集団活ので学ぶこともいから、を勧めたい気持ちはあるわ。でも、あなたの喘息の再発リスクや、これまでの境遇を考えれば……自分のペースで最距をるのも、決して悪い選択じゃないかもしれないわね」
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先はしばらく黙り込み、それから悪戯っぽく微笑みました。
「施設にいられるのも、原則として義務教育が終わるまでよ。……どう? 私のに来ない?」
「え……?」
「ちょうど広い部が余ってるのよ。夫とは婚を提に別居だし、気兼ねはいらないわ。事と部を提供するから、その代わり、私のの回りの世話と、ぬ気での受験勉をしなさい」
先の申しに、私の目から涙がこぼれ落ちそうになりました。 先は京の両親の元へ向き、私をへ学させずに引き取り、面倒を見る旨をかせてくれました。
戻ってきた先は、呆れたように笑っていました。 「お母さん、面倒な荷物が片付いたって顔で、類につ返事でサインしたわよ。あんな親の顔、もう度といす必はないわ」
そのから、之内先の自宅での奇妙で温かな暮らしが始まりました。
先は医師としては極めて優秀でしたが、事能力は完全に壊滅していました。 蔵庫をければ、賞期限の切れたマヨネーズと、干からびたレモン、そしてなぜか私が来るからと買い込んでくれた量のメンマの瓶詰があるだけでした。
「先、今からご飯は私が作ります」
「いいのよ、あなたは勉だけしていれば」
「ダメです。まともな栄養を摂らないと、脳のシナプスが正常に働きません。
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医学見からの提案です」
私がそう言うと、先は参したように両をげました。
台所にち、ごま油をしてメンマを炒める。 魚で買ってきた丸ごとのアジを、包丁で枚におろす。 エラのろから刃を入れ、骨の触を指先で確かめながら、迷いなく包丁を滑らせる。
「魚って、骨と筋肉の構造が分かっていれば、余計な力を入れずに切れるんですね」
私の元をろから覗き込んでいた先が、したように目を細めました。
「どこを切るべきか、どこを切ってはいけないか。その覚、科医に向いてるわよ。いい腕をしてる」
「私が……科医ですか?」
「ええ。の体を治すのも、魚をさばくのも、基本の構造を理解することから始まるのよ」
先の言葉が、私のにく染み渡っていきました。
歳になったある夜、私は卓で先に向きいました。
「先、私、名を変えたいんです」
「いいわね。どんな名にするの?」
「……子です。之内子になりたいんです」
羅(ティアラ)という、親の虚栄と勝な期待だけでつけられた名を捨てたかった。 どこにでもある、けれどにのついた、穏やかで普通の名。 太平のように広く、温かなに満ちたになりたいという願いを込めて選んだ名でした。
郵便物の宛名をすべて「子」に変え、通称としての使用実績を積みね、庭裁判所に改名の申してをいました。
同に、之内先は別居だった夫との婚を正式に成させ、私を養子として迎える続きを取ってくれたのです。
「しい族を始めるために、古い荷物をリセットしたのよ。あなたとお揃いね」
れて「之内子」となった、先が買ってきてくれたさなケーキを囲みながら、私たちは声をてて笑いいました。
卒認定試験は、拍子抜けするほどあっさりと全科目発で格しました。 先の丁寧な指導と、図館に籠もって積みねた々の努力が実を結び、私の学力は予備の全国模試でも、医学部格圏内を定して叩きすようになっていました。
そして歳の。 私は目標通り、学費全額免除の医学部へと、トップクラスの成績で格を果たしたのです。