みかん小説
本棚

"腎臓をあげた私に離婚届――夫の隣には若い女" 第1話

迫られた決断と命の秤

都の総病院の診察には、械のい唸り声と、苦しい沈黙だけが淀んでいた。

「末期の腎全です。すでに腎能はほぼ失われており、このままでは尿毒症を起こして命に関わります」

を着た担当医の淡々とした宣告に、私——裕子(ひろこ)、歳は、子に座ったまま目のが真っ暗になるのをじた。

隣に座る夫の英司(えいじ)は、歳。もともと営業職として回りに奔していたが、ここ数ヶは「体がだるい」「がひどくむくむ」とこぼすことが増えていた。仕事の忙しさを理由に健康診断を何もサボり、販の栄養ドリンクで誤魔化し続けた結果が、この取り返しのつかない診断だった。

「治療法はつあります。涯にわたって週に回、回からの透析を続けるか。あるいは、健康なドナーを見つけて体腎移植をうかです」

医師の言葉が終わるか終わらないかのうちに、英司は青ざめた顔で私の両をく握りしめてきた。骨が軋むほどのい力だった。

「頼む、裕子……! 俺を助けてくれ! 透析なんて受けてたら、仕事も続けられないし、まともな活なんて送れなくなる! おなら適するかもしれないんだろ? ドナーになってくれよ!」

必にすがりつき、涙を浮かべて懇願する夫。

広告

自宅には、まだ歳になったばかりの娘・亜美(あみ)がいる。これからいくらでもおがかかる期に、夫が働けなくなれば計は気にちかなくなる。それに何より、父親を失わせるわけにはいかないというだった。

「分かりました。……私が、検査を受けます」

私の決断に、英司は「ありがとう、裕子! 切にするから!」と抱きついてきた。

幸いにも組織適性の検査結果は良好で、私の腎臓の片方を夫に提供できることが確認された。医師からは、健康なであっても腎臓をつ摘すれば、将来に腎能や蛋尿、血圧などのリスクを背負うことになると、厳な説を受けた。

それでも私は、族の未来を守るために、迷わず同に署名したのだ。

術をに、暮らしをしていた義母の幸代(ゆきよ)さんから同居の提案があった。夫に先たれて広い軒に暮らしていた義母は、優しいで、私の体のことや孫の亜美のことをから案じてくれていた。

「裕子さん、英司がこんなことになって本当に申し訳ないわ。あなたが退院したの事や亜美の送り迎えは、全部私がやるからね。だから、どうか無理をしないで」

こうして私たちは義実へ引っ越し、同居活をスタートさせた。

そして迎えた術当。

に及ぶ術の末、私のの腎臓は無事に英司の体内へと移植された。

麻酔から覚めたの、腹部を焼かれるような激痛と吐き気は、今でも鮮に覚えている。傷をかばいながら、ベッドのすりを握りしめて耐え抜いた。

英司の術は成功し、しい腎臓はすぐに能し始めたという。

しかし、私の体には、医師から警告されていたリスクが、最悪の形で現実となって現れ始めていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: