"五歳の母ちゃん" 第12話
母ちゃんの記憶を胸に
季節が変わり、保育園ではさな発表会がかれた。楓はと踊りを練習して、毎晩のようにで披してくれた。
「お兄ちゃん、ちゃんと見ててね」
「分かった。今は何回目だ?」
「何回でも見てて」
俺は笑いながら、に座った。楓はし緊張した顔でい始め、途で振りを違えた。それでも最までやりきると、俺のところへってきた。
「どうだった?」
「よかったよ。違えたところもあったけど、最までできた」
「本番もできるかな」
「できる。俺が見にくから」
発表会の、俺は仕事の休みを取った。会には保護者がたくさん集まり、カメラを構えている。楓は台の端にち、客席の俺を見つけると、さくを振った。
その姿を見て、母がきていたら同じように見守っていたのだろうとった。胸の奥はし痛んだが、涙はこぼれなかった。
発表会が終わると、楓は俺のところへ駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、見てた?」
「もちろん。すごくよかった」
「母ちゃんも見てたかな」
「きっと見てたよ」
俺はそう答えた。母の魂が本当にどこかにいるかどうかは分からない。でも、母が俺たちを切にしてくれたことは確かだ。そのいは、俺たちのに残っている。
帰り、楓はをつないだまま言った。
「リサちゃん、元気かな」
「元気だとうよ。お父さんと暮らしてるって聞いた」
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「また会えるかな」
「保育園で会うことがあれば、挨拶すればいい」
「母ちゃんって呼んだら、びっくりするよね」
「そうだな。リサちゃんは覚えてないから」
楓はし考え、うなずいた。
「じゃあ、リサちゃんって呼ぶね」
「ああ」
母の記憶があった頃のリサは、俺たちに会いに来てくれた。彼女は俺の母ではなかったけれど、最のを母として過ごしてくれた。俺は、そのことを忘れない。
その夜、楓が眠ったあと、俺は仏壇のに座った。
「母ちゃん、楓は今、発表会で頑張ったよ。俺も、よりしはちゃんとできてるとう」
写真のの母は、昔と同じ笑顔をしている。
「母ちゃんに会いたいってうは、これからもあるだろうな。でも、もう丈夫だよ。楓とでやっていく。困ったら、誰かに頼るようにする」
をわせると、肩の力がし抜けた。
母が帰ってきたあの、俺はもう度母に甘えることができた。そして、最に母と呼ぶことができた。あのがあったから、俺は母を失ったしみを、しずつ抱えてきていける。
翌朝、楓がランドセルを背負い、玄関で靴を履いた。
「お兄ちゃん、今もってきます」
「いってらっしゃい。気をつけてな」
楓は笑顔でへていった。
俺は玄関の戸を閉めるに、仏壇の母へ目を向けた。
「ってくるよ、母ちゃん」
返事はない。それでも、胸のに母の声が残っている。
「いってらっしゃい、シンジ」
そう聞こえた気がして、俺はさく笑った。