"五歳の母ちゃん" 第8話
いなくなったリサ
黒田が来るまで、あともなかった。
「リサちゃんは?」
俺が聞くと、楓は居を見回した。
「さっきまでここにいたよ」
玄関はしいていた。靴がなくなっている。リサはひとりでへてしまったらしい。
「なんで止めなかったんだ」
「ごめんなさい。母ちゃんが、お兄ちゃんに考えるをあげたいって言ってたから」
俺は着をつかんでへびした。リサがどこへくのか、当たりはなかった。楓を所の佐藤さんに預け、俺は駅から商へった。
「リサ!」
名を呼んでも、返事はない。公園にも、保育園のにもいなかった。に話すると、カフェにも来ていないと言われた。
「シンジ、駅の向こうにいるんじゃないか?」
の声で、俺はを止めた。リサは、楓と緒にたこ焼きをべたを気に入っていた。遊園から帰る途に、また来たいと言っていた所だ。
商を抜けてへ向かうと、の端にさな背が見えた。リサは先のベンチに座り、めたたこ焼きの箱を見つめていた。
「こんなところにいたのか」
「シンジ」
「ひとりで歩くなよ。配するだろ」
「ごめんね」
リサはちがったが、すぐにふらついた。俺は慌てて支える。
「丈夫か?」
「し、が痛いの。リサちゃんのことが、どんどん分からなくなる」
「もう帰ろう」
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「まだ帰りたくない」
リサは俺のをつかんだ。
「母ちゃん、もうしだけシンジといたい」
その声を聞いて、俺のは揺れた。今すぐ黒田を呼ぶのをやめて、このままに連れて帰ればいい。記憶を消さなければ、母と緒にいられるかもしれない。
だが、その先に待っているのは、リサの格が消えることだ。
「シンジ」
リサは俺の顔を見げた。
「母ちゃんのこと、嫌いになった?」
「そんなわけないだろ」
「じゃあ、どうしてそんな顔するの」
俺は答えられなかった。
そこへ黒田がやってきた。彼はリサの様子を見ると、厳しい顔をした。
「もうがない。ここで決めろ」
「に戻ってからじゃだめですか」
「戻るに、記憶がさらに混ざる。本の識が保てるうちにやらないと危ない」
リサは俺の袖をつかんだまま、黒田を見た。
「私、消えちゃうの?」
「世の記憶は消える。お自のは残る」
「母ちゃんのことは?」
「いせなくなる」
リサの目に涙が浮かんだ。
「シンジと楓に会えたのに」
「ごめんな」
俺は、ようやくその言葉をにした。
「俺は、母ちゃんがいなくなってから、ずっと寂しかった。だから、君が母ちゃんだって言ってくれたのが嬉しかった。けど、君はリサちゃんなんだ。君のことを消したくない」
「でも、母ちゃんの記憶も消えちゃう」
「そうだな」
「もう度、会えなくなるよ」
「分かってる」
俺は、リサのを握った。
「それでも、君に戻ってほしい」
リサはしばらく黙っていた。やがて、涙をぬぐい、さくうなずいた。
「シンジがそう言うなら、いいよ」