"五歳の母ちゃん" 第2話
「母ちゃんが来たよ」
翌は休みだった。朝をべながら、楓が何度も俺の顔をうかがっている。何か言いたいことがあるのに、うまく切りせない。そんな様子だった。
「どうした? お腹でも痛いのか」
「ううん。お兄ちゃん、今おうちにいる?」
「いるよ。午から買い物にくけど、それまではな」
楓はしたようにうなずいた。それから、しだけ声をさくして言った。
「今ね、母ちゃんが来るの」
箸を持つが止まった。
「保育園で会ったっていう、お母さんのことか?」
「うん。今、おうちに来るって言ってたよ」
「誰がそんなことを言ったんだ?」
「母ちゃんだよ」
楓は当たりのことのように答えた。冗談を言っている顔ではない。けれど、歳の子どもが母親に会いたいとい、像ので会話をすることはあるだろう。俺はそう考えることにした。
「分かった。じゃあ、お兄ちゃんも緒に待ってるよ」
「ほんと?」
楓はぱっと笑った。
昼過ぎ、インターホンが鳴った。俺が玄関をけるに、楓が駆けしていく。
「お兄ちゃん、母ちゃん来たよ!」
玄関のにっていたのは、見らぬ女の子だった。楓と同じくらいの頃で、肩までの髪をつに結んでいる。保育園の制を着て、し緊張した顔でこちらを見ていた。
「こんにちは。楓ちゃんのお母さんです」
女の子はそう言って、ぺこりとをげた。
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俺はわず眉をひそめた。
「お母さん? 君、名は?」
女の子は俺の顔をじっと見つめた。
「母ちゃんだよ。シンジ、きくなったね」
背にたいものがった。
「……なんで俺の名をってる」
「何言ってるの。母ちゃんがらないわけないでしょ」
女の子は俺の返事を待たず、靴を脱いでにがった。楓がそのろをついていく。俺は止めるべきだとったのに、体がかなかった。
居に入るなり、女の子は壁の傷を見て笑った。
「懐かしいね、この畳の傷。シンジがさい頃に猫を飼ってたでしょ。その猫が爪をてちゃったのよ」
「なんで、それを……」
その傷は、俺と母しからない話だった。父は猫を飼うのに反対していた。俺が泣いて頼み、母がに入って飼うことになった。猫がいなくなったあとも、畳の傷だけは残っていた。
女の子は仏壇のに座り、写真を見げた。
「お父さん、久しぶり。シンジも楓も、ちゃんとやってるよ」
俺は息をのんだ。楓は、女の子の隣にちょこんと座っている。
「母ちゃん、お茶む?」
「ありがとう。楓は気が利くねえ」
女の子は楓のを撫でた。つきまで、母が俺たちにしていたものとよく似ている。
「冗談にしては、できすぎてるな」
俺がつぶやくと、女の子は振り返った。
「冗談じゃないよ。私はあんたの母ちゃん」
「そんなわけないだろ。母ちゃんは、もういない」
「そうだね。の体は、もうない。でも母ちゃんはここにいるよ」
聞けば聞くほど、が混乱する。俺はこの子をに置いておくべきではないとった。それなのに、楓は女の子の隣かられようとしなかった。