"結婚式に来ないと怒鳴る義母→義父「もう会場にいるぞ?」" 第4話
鏡のの変と、芽えた恋
あの赤っ恥の診察から、のことでした。 処方された薬が劇に効き、もすっかりがった私は、元気にのシャッターをけて営業を再していました。
午の予約のお客さんを送りし、に散らばった髪の毛をほうきで掃いていたときです。
カランカラン、とドアベルが涼やかな音をてました。
「いらっしゃいませ!」 笑顔で振り返った私の体は、そのままのように直しました。
ガラス扉の向こうにっていたのは、トレンチコートを着て、あの分いメガネをかけたボサボサ髪の男性――あのの診察の医師だったのです。
「あ……あの……」 彼は先のマットので所なげにち止まり、居悪そうに線を泳がせました。
「えっと……昨の、患者さん……ですよね?」
「は、はい! その節は本当に申し訳ありませんでした! でがおかしくなっていて、あんな失礼なことを……!」
私が々とをげると、彼は慌てたように両を振りました。
「いえ、違うんです。りに来たわけじゃないんです。 ……本当に、切ってもらえますか? ここで」
彼は恥ずかしそうに頬を掻きながら、ボソボソと言いました。
「昨、あなたに言われてハッとしたんです。 同僚の護師たちからも、ずっと『先、しは髪を切ってください』って笑われていたのをいしまして……。
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もしよければ、プロの目で、まともに見えるようにしてもらえないかと」
その器用な誠実さに、私の胸のつかえがスッと消えていきました。
「もちろんです! どうぞ、こちらの席へ!」
セット面の子に腰掛けた彼にクロスをかけながら、私は丁寧にカウンセリングを始めました。 彼の名は、藤井(ふじい・あらた)。 総病院の内科で働く、歳の医師でした。
話を聞いてみると、彼のボサボサ髪には切実な理由がありました。 激務の総病院で、当直や緊急呼びしに追われる毎。 休はのように眠るだけで終わり、自分のだしなみに気を配るも気力も、完全に削ぎ落とされていたのです。
「髪型なんて、清潔なら何でもいいとっていました。 そもそも、自分なんかが綺麗にしたところで、誰も見ていませんしね」 自嘲気に呟くさんに、私はハサミを握り直して言いました。
「そんなことありませんよ。さんは顔ちのパーツがすごく綺麗です。 お仕事で患者さんと接するときも、髪型ひとつで相にを与えられるようになりますよ」
私は迷いなくハサミを入れ始めました。 たく鬱陶しかった髪をすっきりと流し、周りと襟を清潔のあるグラデーションに刈りげます。 つむじの割れやすい癖を活かし、ワックスをし揉み込むだけで自然な束がるようにレイヤーを入れました。
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最に分い黒縁メガネをし、持参していた細フレームのメガネに変えてもらうと――。
「……え?」 鏡を見つめたさんが、息を呑んで固まりました。
そこにいたのは、気で疲れ切ったボサボサ髪の男ではありませんでした。 性で涼やかな目元が際つ、爽やかで誠実そうな青医師の姿でした。
「さん、すごく素敵ですよ。とってもかっこいいです」
私がからの笑顔で告げると、さんはの先まで真っ赤にして、鏡から目をそらしてしまいました。
「……まれて初めて、自分の顔をまともに見られた気がします。ありがとうございます」
そのから、さんはに度、欠かさず私のに通ってくれるようになりました。 病院での来事、患者さんへのい、そして私の仕事へのこだわり。 髪を切りながら言葉を交わすうちに、私たちは自然と惹かれっていきました。
どれほど忙しくても音を吐かず、常に患者さんの命を最優先にするさんの優しさとさ。 交際が始まってが過ぎた私の誕の夜、さんはさな指輪の箱を差しし、真っ直ぐな瞳でプロポーズしてくれました。
「誠さんと緒にいると、自分のが温かくなるのが分かります。をかけて、君を幸せにしたい」
母をくして以来、ずっとで戦ってきた私のに、あたたかなが満ちていくのをじました。
このとなら、どんな困難も乗り越えていける。 そう信じて疑わなかった私を待ち受けていたのは、像を絶する「格差」の壁でした。