"出産3日目、1億円の入金直後に夫が離婚届" 第10話
漏れの庭としい歩み
調が成し、婚届が正式に受理されてから、半の歳が静かに流れた。
季節は巡り、の柔らかな差しが、実の庭の青葉を眩しく照らしていた。
目で病院のベッドにいた結は、もう歳になった。
「ママ、みて! おはな、さいた!」
庭の隅に植えたチューリップのにしゃがみ込み、さな指で赤いびらを指差して笑う結。柔らかい髪がに揺れ、ふっくらとした頬が桜に染まっている。
「本当だ、綺麗に咲いたねぇ」
私がしゃがんでを撫でると、結はキャハハと声をげて抱きついてきた。
このさな温もりを抱きしめるたび、あの嵐のような々を戦い抜いて本当によかったと、の底から込みげるものがある。
あの、産科の病で突きつけられた理尽な裏切り。
失われた穏やかな産のは、度と戻らない。けれど、泣き寝入りすることなく、自分の尊厳と娘の未来を自分ので守り抜いたという経験は、私のに決して揺らぐことのないい芯を作ってくれた。
ミューラー・アセットの仕事には完全に復帰し、今では週の半分を宅勤務に充てながら、無理のないペースで会社をかしている。
父は相変わらず数はないものの、すっかり「孫煩悩なおじいちゃん」になり、結がよちよち歩きで寄るたびに、顔をくしゃくしゃにして目尻をげている。
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「おも、いい顔つきになったな」
縁側でお茶をんでいた父が、結と遊ぶ私を見てポツリと言った。
「そうかな?」
「ああ。誰かに寄りかかってきている顔じゃない。自分で腹を括って、自分のでを踏みしめている顔だ」
父の器用な褒め言葉に、私は照れくさそうに笑った。
神ケアフーズのそのについては、理恵さんを通じての便りに聞いている。
会社は事業規模を縮しながらも、専務をとした体制のもとで何とか持ち直しているそうだ。
直は今、平の営業マンとして、かつて自分が見していた取引先を軒軒をげて回り、ノルマに追われる々を送っているという。社内での信用は完全に失墜し、贅沢を極めていた頃の面は微もなく、郊の古いワンルームアパートで暮らしを続けているらしい。
彼との面会交流については、調で定めたルールに従い、に度だけ実施している。
浮気をし、私を裏切った男であっても、結にとっては血の繋がった父親であることに変わりはない。娘から父親のを奪う権利は私にはないと考えたからだ。
最初のうちは第者関を挟んでいたが、今ではに度、駅のファミリーレストランでほど、直と結が過ごすを設けている。
直は決められたとルールを正確に守り、毎回、さな絵本やおもちゃを持参してやってくる。
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あの、病で娘に指本触れようとしなかった男が、今では器用なつきで結のジュースのストローを袋からし、結ののないおしゃべりに必でを傾けている。
先の面会が終わった際、直は帰り際に、私に向かってくをげた。
『……結を、こんなに真っ直ぐに育ててくれて、ありがとう。あの、俺がどれだけ取り返しのつかないことをしたか、今でも毎悔している』
その言葉を聞いた、私のにはみも、りも、そして未練も湧いてこなかった。
「結が楽しそうにしていたので、良かったです。では、また来」
事務にそれだけを告げ、私は結のを引いて歩きした。
許したわけではない。壊れてしまった信頼の器は、どれだけ接着剤を塗りたくっても度と元の形には戻らない。
けれど、彼が自分の過ちのさを背負い、の父親として娘に向きおうとしているのなら、その距を静かに保ち続けることこそが、今の私たちにとっての最善の形なのだ。
ピロン、とポケットののスマートフォンがく鳴った。
画面を見ると、ミューラー・アセットの座から、しい半期配当の入通が表示されていた。
のあの、私のをきく狂わせる引きとなった、あの通音と同じ音。
けれど、今の私はもう、数字に振り回されることも、誰かの悪に怯えることもない。
画面をそっとスワイプして通を消すと、庭の結が「ママ、お腹すいた!」とトコトコ駆け寄ってきた。
「はいはい、お昼ご飯にしようね。今はお父さんが作ってくれた美しいおうどんよ」
「うどん! わーい!」
結のさなを握りしめ、私たちはあふれるリビングへとを踏み入れた。
自分のを、自分の志で選んで歩んでいく。
その当たりで確かな幸せを胸に抱きながら、私たちの穏やかな々は、これからも続いていく。