"出産3日目、1億円の入金直後に夫が離婚届" 第3話
徹な即答と止まる資
直の線が、わずかに泳いだ。ほんの瞬、病の壁のカレンダーへと目を逸らし、すぐに何わぬ顔で戻ってきた。
「ってたよ。おの実の会社のIR報を見れば、特別配当の基準も振込予定も全部てるんだから。隠すようなことじゃないだろ」
「その入を待って、この類を持ってきたの?」
「謀みたいに言うなよ」
直はそうにを鳴らした。
「婚姻にきなおがくなら、そのタイミングで綺麗に清算を済ませるのが番理だろ。おだって、子育てで忙しくなるに、面倒なおの処理は気に終わらせたいはずだ」
理性。清算。面倒なおの処理。
の娘を産み落とし、傷の痛みに耐えながら授乳している妻の目ので、この男はすべてを完璧に計算してここにっていたのだ。
体力が奪われ、考力も衰え、判断力が最もしている産直を狙えば、面倒な議論を避けてサインするだろう——そんな浅ましい目論見が、っぺらいの隙から透けて見えていた。
りでが沸騰しそうだった。
だが、議なことに、私の指先は急速にたくなっていった。
泣き叫んで「どうして」とすがるのは簡単だ。けれど、この男ので涙を流すことすら、今の私には猛烈な屈辱にえた。
私は元の婚届と提案を揃え、無言でパタンと閉じた。
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そして、サイドテーブルのに伏せてあったスマートフォンをに取った。
「……誰に話する気だ?」
直が怪訝そうに眉をひそめた。
「仕事よ」
画面のロックを解除し、縮ダイヤルの番を押した。私の個資産管理会社『ミューラー・アセット』の財務担当責任者であり、父の代からがの資産を守ってくれているベテラン社員・佐伯さんの直通番号だった。
ツルルル……と回鳴ったところで、すぐに相がた。
『はい、ミューラー・アセットの佐伯です。玲奈様、ご産おめでとうございます! 体調はいかがですか?』
「佐伯さん、ありがとうございます。急なお話でごめんなさい。至急、確認して実してほしいことがあります」
私の声がいつもと違うことに気づいたのだろう、話の向こうの佐伯さんの息遣いがすっと引き締まった。
『何でしょうか。何なりとお申し付けください』
私はベッドサイドに座る直から目を逸らさず、言言、区切るように告げた。
「現、夫の神ケアフーズに対して設定している融資枠のうち、まだ実していない未実分の資をすべて引きげてください。来予定していた追加の送も、直ちに止してください」
『えっ……?』
佐伯さんがわず声を漏らした。
「それから、私名義で発している族カードの追加カードについて、今すぐカード会社へ連絡して利用止の続きをお願いします。
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あわせて、夫の会社とのこれまでの資の流れをすべて洗いして、法な清算続きの準備に入ってください」
話の向こうで数秒の沈黙があったあと、佐伯さんの声が極めてく、真剣なトーンに変わった。
『……承いたしました。ご主から、何か申しがあったのですね?』
「はい。婚の申しを受けました。ですから、夫婦だからという理由で便宜を図っていたものはすべて終させます。ただし、すでに実済みの融資分については契約通りに扱ってください。社員の方々のお料に迷惑がかかるような引な引きげは望みません。未実分と、今の追加分だけを止めてください」
『かしこまりました。ただちに続きに入ります』
通話を切ると、病のは恐ろしいほどの静寂に包まれていた。
直の顔は、先ほどまでの静さを完全に失い、りと焦りで真っ赤に染まっていた。
「おい……! お、何勝なことしてんだよ!?」
「勝? あなたが望んだことでしょう」
「俺は会社を潰せなんて言も言ってないぞ! 追加の千万円が入らないと、来期の規事業の仕入れがショートするんだよ!」
「私も会社を潰すとは言ってないわ」
私はややかに言い返した。
「すでに貸している千百万円は、契約通りに維持するって言ったでしょう? でも、来すはずだった追加の融資は、あくまで『私の夫の会社だから』という理由です予定だったものよ。
夫婦を終わらせるなら、妻としての支援も終わる。当たりの話じゃない」
「そ、そんなの脅しだろ!」
「脅しなら、『婚を取りげたらおをしてあげる』って言うわよ。私はそんなこと言も言ってない。あなたが夫婦を終わらせたいなら、どうぞ。その代わり、夫婦だからこそ受けられていた恩恵もすべて消えるだけよ」
直はちがり、拳を握りしめて私を見ろした。
「族カードまで止めることないだろ! あれは活費だぞ!」
「私の名義のカードよ。族を今すぐ終わらせたいって類を持ってきたが、元族のカードで活しようとする方がおかしいんじゃない?」
ぐうの音もなくなった直の荒い息遣いだけが、病に響いた。
ふえぇ……と、結がさく泣き声をげた。
私は直から完全に線を切り、が子の背を優しくトントンと叩いた。
「……今はもう帰る」
直は吐き捨てるように言い、テーブルののい封筒を指差した。
「婚届、置いていくからな。ちゃんとサインしろよ」
「置いていって。でも、今すぐにはさないわ。私が退院して、ちゃんと物事を判断できる体調に戻ってから決める」
「ちっ……!」
直は乱暴に踵を返し、ドアをバタンと激しい音をてて閉めててった。
部に、再び私と結のきりのが戻ってきた。
静まり返った病で、元に残された婚届を見つめているうちに、私の目からポロポロと涙がこぼれ落ちてシーツを濡らした。
「……最悪」
声にして呟いた。
がってはいたけれど、悔しくて、けなくて、体が痛くて、涙が止まらなかった。
たったのが子ので、おの計算だけを目に捨てられたのだ。平気なはずがなかった。
それでも、たいで顔を洗いながら、私は鏡のの自分に言い聞かせた。
泣くのは今だけにしよう。
この男に、私と娘のを円たりとも奪わせてなるものか、と。