"出産3日目、1億円の入金直後に夫が離婚届" 第1話
病の朝と億円の通
産科病棟の部から個へと移ったのは、昨の夕方のことだった。
「カーテンを閉め切った暗い内には、加湿器が微かに蒸気を吹きす音と、まれたばかりの娘の寝息だけが満ちていた。
玲奈(れいな)、歳。に初めての産を終えたばかりの私の体は、まるでい鉛を背負わされているかのように軋んでいた。
分娩台ので以も陣痛に耐え、会の傷は歩くどころかベッドのに腰掛けるだけでびがるほどの痛みがる。陣痛の腹部のだるさに加え、おきに泣きす娘への授乳。まだ母乳のも定せず、乳首は擦り切れてを持ち、触れるだけで涙が滲む。
最にまとまった眠をとったのは、体いつだっただろうか。まぶたの裏側がく焼け付くようで、の奥がずっと締め付けられるように痛かった。
コットと呼ばれる透なベビーベッドので、目の結(ゆい)がふにゃふにゃとさな両をかし、顔を真っ赤にして泣き声をげ始めた。
「……よしよし、結ちゃん、お腹空いたね。ごめんね、今抱っこするからね」
私はベッドの柵にすがりつき、歯をいしばりながらゆっくりと体を起こした。骨盤が砕けそうに痛み、の指先に力を入れてスリッパを探すだけで、額から脂汗が滲みる。
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ノックの音とともに、夜勤けの護師さんが笑顔で入ってきた。
「さん、おはようございます。体調はどうですか? 無理してたなくて丈夫ですよ」
護師さんは慣れたつきで結を抱きげ、オムツの際よい交換を伝ってくれた。
「痛いですよね、産目が番きつい期ですから。焦らなくて丈夫ですよ。お母さんも赤ちゃんも、まだ練習を始めたばかりなんですからね」
その優しい言葉に、張り詰めていた胸の奥がじんわりと緩み、わずさく頷いた。
そのだった。
ベッドサイドのさな台のに置いていた私のスマートフォンが、く震えて画面をるく灯した。
授乳の姿勢をえながら、何気なく画面に目を落とす。の専用アプリからの入通だった。
『普通預へのお振込み:100,000,000円 ミューラー・アセットマネジメントより』
画面に表示された途方もない桁数の数字を見て、私は「あ、今だったんだ」とので淡々と呟いた。
父が代で築きげた精密器メーカーの関連株。私が結婚するずっと、代半ばのに父から贈与として譲り受け、個で設した資産管理会社『ミューラー・アセット』で保していたものだ。半ほど、保株の部がに売却されることが決まり、その特別配当が億円という巨額の現となって、私の個座へ振り込まれる予定になっていたのだ。
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妊娠のいつわりや産準備のドタバタで、いつ入されるのかすら完全にから抜け落ちていた。
ふぇぇ、と結が甘えたような声をして私の胸に顔を寄せてくる。
私はスマートフォンの画面を伏せ、机のに裏返して置いた。
今の私にとっては、画面のの無質な億円という数字よりも、腕ので頼りなく温もりを伝えてくる、体千グラムに満たないこのさな命の方が、何千倍も、何万倍も切だった。
護師さんが「し休んでくださいね」と部をていき、授乳を終えた結が再びすやすやと眠りに落ちたのは、午を回った頃だった。
静まり返った病に、ノックの音が回、やや慮がちに響いた。
入ってきたのは、私の夫であり、品卸会社『神ケアフーズ』の代表取締役を務める神直だった。