"正月の高級焼肉、嫁の席だけ外した義母の誤算" 第6話
スーパーの牛タンとさな乾杯
練馬の本をて通りにるまで、内にはい沈黙が流れていた。
正の夕方、すっかりが落ちたは通りもなく、をくの赤いテールランプが暗がりのにぼんやりと滲んでいた。夫は黙ったまま、しいつきでハンドルを握り締めている。
「……秀さん、ごめんね」
助席からそっと声をかけると、夫はを見据えたまま、髪を入れずに首を横に振った。
「美代が謝ることじゃないだろ」
「でも、お父さんが始めた切なお正の集まりだったのに。私が余計なことを言わなければ……」
「美代は何も言ってないじゃないか。母さんたちが勝におをしたんだ。あんなところに美代を置いて、俺だけ平気な顔で肉をえるわけがない」
夫の声はかったが、迷いは微もなかった。
結婚して、夫が実の母親や姉に対してここまでい拒絶を示したのを見たのは初めてだった。波をてるのが嫌いで、いつだって「まあまあ」とに入って苦笑いしていた夫が、私のためにあので踵を返してくれたのだ。
胸の奥に溜まっていたたい鉛のような塊が、じんわりと溶けていくのをじた。
「……ありがとう。緒に帰ってくれて、すごく嬉しかった」
私が膝ので指を絡めわせながら呟くと、夫はちらりとこちらを見て、照れくさそうに元を緩めた。
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「当たりだろ。夫婦なんだから」
たったそれだけのい言葉だったけれど、の台所仕事や、写真の側にたされ続けた惨めさが、瞬で洗い流されていくような気がした。
赤信号でが止まったとき、夫がふといしたように眉を寄せた。
「そういえばさ、半頃、俺が廊で母さんに呼び止められてただろ」
「うん、階段のところで何か話してたよね」
「あのさ、『クレジットカードは持ってきたわよね?』って聞かれたんだよ。何でそんなこと聞くんだって返したら、『のためよ、おなんだから』って誤魔化されたんだけど……」
夫の言葉に、私のので何かが引っかかった。
私は膝ののスマートフォンをき、に直子さんがグループに送ってきた焼肉の案内ページをもう度いた。スクロールして、番にさくかれていた注きを読みげる。
『名様以のご予約につきましては、ご予約にクレジットカード報のご登録をお願いしております。当のキャンセルにつきましては、コース料の全額を申し受けます』
「……秀さん。予約したのは直子さんよね」
「ああ、そう言ってたな」
「じゃあ、おに登録されているのは直子さんのカードよ。もし誰も払わなかったら、おは直子さんに全額請求することになるわ」
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夫は息を呑み、方のを見つめた。
「まさか……最初から俺に全額払わせるつもりだったのか? でも、の話で母さんは『誰もそんなこと言ってない』ってはっきり否定したんだぞ」
「そうね。だから、確証はないけれど……」
義母が親戚に「秀がいるから丈夫」と吹聴していたこと、そして直子さんが玄関で見せたあの異様な焦り。
もし最初から夫に払わせる計画だったとしたら、夫が来なければ困るのは、予約者である直子さん自だ。しかし、いま考えても答えはない。
「まあ、もう関係ないよ。俺たちがかない以、べたたちで払うのが筋だ」
夫はそう言ってハンドルを切り、いつものスーパーの駐へを滑り込ませた。
「美代、腹減ったろ。うちで美い肉焼こうぜ」
内に入ると、正だというのに結構なで賑わっていた。精肉コーナーのにち、夫はパックをに取って笑った。
「さすがに赤坂の特選シャトーブリアンはないけどさ、ちょっといい国産牛のカルビ買っていこう」
「ふふ、分すぎるよ。私、牛タンべたいな」
「よし、牛タンも買おう。千おばさんの代わりに、俺が番に焼いてやるよ」
パック入りのカルビと牛タン、キャベツ、玉ねぎ、そしてビールの缶パックをカゴに入れてレジに並ぶ。計を見ると、ちょうど半を回ったところだった。
今頃、赤坂の豪華な個の扉がき、親戚たちが席に着いているはずだ。
その同じに、私たちはスーパーの袋を両に提げて、たい夜のを笑いながら歩いていた。
川のマンションに戻り、リビングのテーブルにホットプレートをセットする。
「乾杯!」
カシュッと缶ビールをけ、でグラスをわせた。くなったプレートに牛タンを並べると、ジュウとばしい煙がちる。
レモン汁をつけてに運ぶと、わず笑みがこぼれた。
「美しい……! でべるお肉が番美しいね」
「だろ? 万千円のコースより、美代とべるこの牛タンの方が百倍美いよ」
本の広い座敷で、誰がいつ呼ぶかわからないお茶の配をしながらち尽くしていた正とは、まるで別の世界のようだった。静かで、かくて、誰にも気兼ねのないだけの。
しかしその頃、赤坂の個では、誰も予していなかった獄の幕が静かにがろうとしていた。