"昭和35年、高校を諦め祇園へ渡った15歳の少女" 第12話
襟替えの音との迷い
置の廊ですれ違うたび、先輩の芸妓たちがに声をかけるようになっていた。
「ちゃん、そろそろやなあ」
「あともしたら、歳や。襟替えの支度、始めなあかんのと違う?」
「襟替え(えりかえ)」。
それは、妓が着物の赤い襟をい襟に変え、の「芸妓」として独りちする、における最の儀式だった。
妓でいられるのは、くても歳か歳まで。そこから先は、芸妓としてをこのの芸に捧げてきていくか、それともを引退して普通の女性として町へ戻り、庭に入るか。その者択を迫られるのが、この世界にきるすべての女の宿命だった。
は、階の納戸の部で、膝のに置かれた青の写真をじっと見つめていた。
(うちのは……どこへ向かうんやろ)
半の、必に積みねてきた祇園での々。
朝から晩まで鳴られ、を血豆だらけにして覚えた井流の。線の爪弾き、お座敷での客のあしらい方、そして何よりも、この体に染み付いた京都の美しい言葉遣い。
いまや自分は、のとして完全に来がっていた。芸妓になれば、もっとい芸を極めることができる。自分で座敷を取り、輩を育て、自した女としてきていくもある。
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けれど——。
目を閉じると、故郷の丹の々の匂いが、胸の奥底からちってきた。
のたいのさ。先に芽吹くフキノトウの苦。の差しに揺れる青い稲穂と、の稲刈りのの藁のばしい匂い。
そして、だらけになって働きながら、いつも自分を案じてくれていた両親の温かい笑顔。
(うちは……あの町へ、帰りたいんやろか)
どちらを選んでも、何かを捨てなければならなかった。
芸妓になれば、もう度と「普通の庭の温もり」をに入れることは難しいだろう。誰かの妻になり、子供を産み、々のささやかな暮らしを営む活とは、永に決別しなければならない。
だが、あの青と結婚して故郷へ帰れば、半の、血と汗を流してにつけてきたこの「妓・」としての芸も誇りも、すべて祇園の畳のに脱ぎ捨てていかなければならないのだ。
夜の静寂の、は、鏡のに座り込んだ。
鏡のには、髷を結いげ、を落とした素顔の自分がいた。
丹の「文代」と、祇園の「」。
つの名ので、歳のは激しく揺れいていた。
階から、コトコトとお母さんの静が煙管を吸う音が聞こえてくる。
はちがり、畳の軋む音を忍ばせながら、静のいる階の奥の部へと向かった。
障子のにをつき、はさく息を吸い込んだ。
「……お母さん。でおたの申します。お話がございます」