"喫茶ひばりの百円玉" 第1話
つの黒いテーブル
「おばちゃん、コーヒーはいらない。百円玉、両替して」
の曜、午分。喫茶ひばりの戸をけたが、カウンターに千円札を置いた。杉原律子はサイフォンのをめ、の顔を見た。
「いらないって、うちは喫茶なんだけど」
「ってるよ。だから来たんじゃん」
「何しに?」
「インベーダー」
は悪びれずに答えた。背には同じ制の友達がいて、もう黒いテーブルをのぞき込んでいる。子音がく鳴り、画面のでさな敵が横列にき始めた。
律子は千円札を受け取り、百円玉を枚数えた。自分のがすっかり慣れてしまったことに、し腹がった。
ひばりは駅から本入った桜町商にある。階建ての古い造で、階が、階が杉原夫婦のまいだ。昭にしたとき、律子は歳だった。コーヒーをむ所がまだ今ほどくなかったころ、夫の清が豆をひき、律子がナポリタンを作った。くの計や写真館のたちが、昼休みになると決まった席に座った。
今で。井の扇は相変わらず首を振るたびにきしみ、壁の鳩計は分遅れる。それでも常連たちは「ここが番落ち着く」と言ってくれていた。
ところが今、その常連がもいない。
窓際の卓、奥の卓。
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の終わりに入れたゲームが、の半分を占領していた。ガラスの板のに宇宙から来たようなさな敵が映り、若い客はそこへ百円玉を入れ続ける。皿の横に貨を積みげ、終わるたびに次の枚を滑り込ませた。
「もう杯、おちょうだい」
ゲームに向かったままが言う。律子が差しを持っていくと、は画面から目をさず、だけでコップを受け取った。
「コーヒーは?」
「いらないって」
度言われると、度目は聞けなかった。
午を過ぎても、毎週曜に来る寺田富の姿はない。富は所での直しをしている歳の女性で、曜になると窓際でアイスコーヒーをみながら注文の控えをいた。郵便局を退職した塚さんは、その隣で聞を広げた。は別に親しいわけではないが、席が決まっているから顔をわせれば話す。
律子は朝、富が好きないクッションを子に置こうとして、子そのものがなくなったことに気づいた。倉庫には、ゲームと入れ替えた卓が脚をにして積んである。
夕方、夫の清が仕入れから戻った。歳になった清は、豆の袋を肩からろすと、若者の背を見回した。
「盛況だな」
「コーヒーは杯しかてないよ」
「でも械は回ってる」
「械はね」
清は返事をせず、カウンターの奥で袋をけた。
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焙煎した豆の匂いが広がる。律子はその匂いを嗅ぐと、しだけ気持ちが落ち着く。
械を入れようと言いしたのは律子だった。商の反対側にしい喫茶ができ、昼の客が減っていた。パンも卵も仕入れ値ががり、階の根は漏りを始めた。ある、ゲームの業者が来て「設置料はかかりません。売を分ける方式です」と説した。最初は台のつもりだったが、台なら客が並ばずに済むと言われ、律子は契約に判を押した。
「台で様子を見るんじゃなかったのか」と清は反対した。律子は「計簿を見てから言って」と返した。はをきかなかった。
ところが初から若い客が押し寄せた。初めて貨を回収した晩、袋のさにとも笑ってしまった。あんなに百円玉を度に見たことはなかった。
その笑いが、今はしい。
閉、ようやく入の鈴が鳴った。富だった。律子が「いつもの席、今は空いてないけど」と言いかけると、富はのへ入らず、ガラス越しに黒い卓を見た。
「律ちゃん、あの子、もう戻さないの?」
「いずれはね。今ちょっと、商売の都で」
「そう。じゃあ、また」
富は買い物かごを持ち直して帰っていった。引き止めるもなかった。
夜。最の客を送りし、清が台の源を切ると、は急に静かになった。
律子は奥の壁に残る角い焼け跡を見た。そこには先まで、常連たちの写真が飾ってあった。ゲームの搬入で邪魔になり、したままになっている。
「、富さんのところへってみる」
律子が言うと、清はレジを閉めながら答えた。
「を払ってくれる客が来てるんだ。悪いことじゃないだろ」
「悪いことじゃない。でも、何かが違う」
清は顔をげなかった。律子はを掃き、ゲームのから百円玉を枚拾った。貨はったよりたかった。