"写真のない履歴書" 第6話
べるのかしら
毎の訓練が続くと、に帰るころにはがくなっていた。朝から歩き方を練習し、午はお辞儀や言葉づかいを覚える。に着いてからも、習ったことを忘れないようにノートを読み返した。覚えたつもりでも、次のになると細かいところが抜けている。
ある夕方、駅のホームでを待っていたとき、最の同期がぽつりと言った。
「私たち、本当にべるのかしら」
彼女は歳で、のでは番だった。いつも落ち着いて見えるだが、そのはし疲れた顔をしていた。
「に乗ったことがないもいるのに、いきなりお客さまのにつんでしょう。私、考えるとになるの」
私はすぐに返事ができなかった。自分だって、がどんなふうにぶのか詳しくはらない。訓練を受けているとはいえ、本番になれば違えるかもしれない。お客さまに迷惑をかけたらどうしよう。そんな配は、私のにもあった。
彼女の顔を見ているうちに、私は気づけばをいていた。
「べるわよ。だって、もう制の採寸まで済んだんだもの」
彼女は瞬黙り、それから吹きした。
「そうね。制まで作っておいて、べませんでしたじゃ困るわね」
私たちも笑った。確かな根拠があったわけではない。ただ、笑ったことで、胸のあたりにあったさがし軽くなった。
広告
に帰ると、母は縫い物をしていた。私は隣に座り、今の訓練であったことを話した。本をに載せて何度も歩いたこと。お辞儀の練習をしたこと。お盆のをこぼした同期をみんなで励ましたこと。
母は針をかしながら聞いていた。
「変そうだね」
「うん。でも、みんな同じように失敗してるから」
母はし考えてから、「あなたが自分で選んだ仕事だもの。悔いのないようにやりなさい」と言った。
私はうなずいた。のために始めた仕事ではある。でも今は、自分で選んだでもあるとえていた。
827の招待がづくと、訓練の内容は内でのきに変わった。お客さまを迎えて席へ案内する。ベルトの使い方を伝え、内を見て回る。にはみ物を配る。私たちはにいた順を何度も確かめた。
夜、布団に入ってからも、私はさな声で練習した。
「いらっしゃいませ。お席へご案内いたします」
暗い部ので、声にしてみる。は本当に空へく。そううほど胸が落ち着かなくなった。それでも、目を閉じてきをつずつい浮かべた。朝になれば、で羽田へ向かう。怖くないとは言えないが、逃げたいとはわなかった。