"もやしと消えた仕送り" 第9話
凍りつく座敷と母の刀
「毎もやしばかり」という義母の骨な侮辱に、同席していた親戚たちからも微かな息を呑む音が漏れた。
麻美さんの母親である叔母さんが、眉をひそめて義母を窘めようとした。「ちょっと、淑恵さん……」
しかし、私の母はしもじることなく、静かにを挙げてそれを制した。
そして、座布団のに両をきちんと揃え、穏やかな、しかし芯の通った声で義母を見据えた。
「ご配いただき、ありがとうございます。お様で、娘の優しい遣いのおかげで、毎美しくご飯をいただいておりますよ」
母のどこまでも落ち着いた物言いに、義母は拍子抜けしたようにを鳴らした。
「ふん、がりを言っちゃって。娘の仕送りを当てにして、ろくに働きもせずに団で暮らしてる分のくせに」
「それよりも、お義母様」
母は義母の嫌を完全に聞き流し、すっと目を細めた。
「そちらこそ、活の方は丈夫なのですか?」
「はあ? 何のことよ!」
「娘の座から、毎万円ものを勝に引きして使っていらしたと伺いました。の庭のおにをつけてまで贅沢をなさらないと暮らせないほど、こちらの計は困窮していらっしゃるのかと、親としてから配申しげているのですよ」
座敷のに、静まり返った沈黙が落ちた。
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義母の顔が、見る見るうちに茹でダコのように真っ赤に沸騰していく。
「な、何を根拠のない鱈目を! あのおはね、私の息子の久しが懸命稼いできたおよ! 息子が親に遣いを渡して、何が悪いっていうのよ!」
義母は座布団を蹴ばすような勢いでちがり、母を指差して鳴り散らした。
だが、母は微だにしなかった。背筋を真っ直ぐに伸ばしたまま、静かに義母の目を射抜いた。
「嘘をおっしゃるのはおやめなさい。そのおは、私の娘の里見が、毎夜遅くまでパソコンに向かい、を削って稼ぎした汗の結晶です。それをりながら横取りし、あまつさえ『貧乏にはもやしがお似い』などとを嘲笑う……。のおで着飾り、のおで贅沢をして威張り散らすことの、体どこに誇れるところがあるのですか。恥をりなさい」
「は、恥ですって……!?」
「ええ、恥です」
母の凛としたが、静まり返った座敷に凛と響き渡った。
義母はまるでビンタでもらったかのようにぐらりとよろめき、をパクパクと閉させたが、返すべき言葉が見つからないようだった。
「だ、だって……あれは夫婦の共財産でしょ! 久しのでもあるじゃないの!」
なおも苦し紛れに喚く義母に、今度は親戚の老である叔父さんが、々しく扇子を畳に叩きつけた。
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「いい加減にしろ、淑恵!」
「お、兄さん……?」
「おが親戚に吹聴していた話とまるで違うじゃないか! 嫁に虐待されて通帳を奪われただの何だのと泣きついておいて、蓋をけてみれば、息子の無職を隠して嫁の稼ぎを勝に使い込んでいただけじゃないか! よくもまあ、こんな席にを集めて恥の塗りができたものだ!」
叔母さんたちも斉にたい軽蔑の差しを義母に向けた。
「そうよ淑恵さん。お嫁さんのお母様にそんな失礼なを利くなんて、としてどうかしてるわ」
「久しも久しだ! の員だなんて嘘をついて、妻のおを母親に横流しするなんて、けないにも程がある!」
面楚。
自分を正当化するために集めたはずの親戚同から、斉に厳しい非難の矢が突き刺さる。義母は顔面を蒼にし、ボロボロと乱れた髪のまま、畳のにへたり込んだ。
そんな母の醜態を横目に、ずっと俯いていた久しが、震える声で私に縋り付いてきた。
「里見……頼む、もう許してくれ! 俺が悪かった、全部俺のさのせいなんだ! これからはを入れ替えて、どんな仕事でもするから……! 婚だけは、婚だけは勘弁してくれよ!」
畳に額をこすりつけ、涙とを流しながら懇願する夫。
しかし、そのみっともない姿を見ても、私のにはさざ波つたなかった。
「久しさん」
私は静かにちがり、見ろすように夫に告げた。
「あなたがを入れ替えようが、持ちになろうが、私にはもう何の関係もありません。私はあなたに対して、りすらじていないの。ただ……完全にめ切って、何つが残っていないのよ」
「そんな……里見……!」
「今週に、私のマンションから荷物をまとめてていってください。鍵はポストに入れておいて。度と、私のに現れないでね」
私がたく言い放つと、親戚の誰もが久しを庇おうとはしなかった。
ただけた空気の、夫のみじめな泣き声だけが、え切った座敷に虚しく霊していた。