"もやしと消えた仕送り" 第3話
豪華なステーキと眠り薬のワイン
用事を済ませて夕方に都のマンションへ戻ると、玄関にはすでに見慣れた革靴が脱ぎ捨てられていた。
キッチンからは、肉がジュージューと焼けるばしい音と、バターの濃なりが漂っていた。
「里見、おかえり! かったんだね」
エプロン姿の久しが、フライパンを片に満面の笑みで振り返った。爽やかな髪にった顔ち。誰が見ても「優しくて事にも協力な理の夫」そのものの姿だった。
「ただいま……。今はやけにごちそうだね」
里見は平静を装いながら、ダイニングテーブルのに線を落とした。
い皿のに盛り付けられていたのは、見事なサシの入った切りの級牛ステーキだった。付けわせには鮮やかなアスパラガスとマッシュルームのソテーが添えられ、級レストランのディナーと見紛うばかりの豪華さだった。
昼に母ので見た、あの寂しいもやしの鉢が脳裏にフラッシュバックし、胃の奥がぎゅっと締め付けられた。
「へへ、昨は俺の料だったからさ。いつも遅くまで仕事を頑張ってくれてる里見に、たまには美いものをべてもらおうとって奮発したんだよ」
照れくさそうにを掻く久し。
「そうなんだ……ありがとう」
里見は無理やり元を緩め、席に着いた。
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「いただきます」とをわせ、久しは実に美そうに肉を頬張り始めた。「うーん、やっぱりいい肉は脂が違うな! 里見もめないうちにべなよ」
里見はフォークをかし、さく切った肉をに運んだ。とろけるような柔らかさのはずなのに、砂を噛んでいるかのように何のもじられなかった。
私たちがこんな贅沢をしているにも、母は古びた団の暗い部で、きりでもやしを啜っていたのだ。その理尽な景をい浮かべるだけで、喉の奥がくなり、目がじんと痛む。
(泣いちゃ駄目。ここで怪しまれたら、真相が掴めなくなる)
里見は奥歯を噛み締め、何わぬ顔でステーキを平らげた。
「ああ、ったった! 満だな」
お腹をさすりながらリビングのソファへ移する久しを見て、里見はスッとちがり、キッチンのセラーから赤ワインのボトルを取りした。
「久し、今はお肉も美しかったし、しまない? 珍しくいいワインをけようとって」
「えっ、ワイン? 里見からお酒を誘ってくるなんて珍しいじゃないか。むむ!」
久しはお酒が好きだったが、体質にそれほどい方ではない。調子に乗って、杯もめば、すぐに目がとろりとして眠ってしまうことを、里見はよくっていた。
グラスに濃いルビーのワインを注ぎ、久しのに置く。
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「はい、お疲れさま」
「ありがとう。じゃあ、乾杯!」
嫌でグラスを傾ける夫を見届け、里見はちがった。
「私、先にお呂に入ってくるね。ゆっくりんでて」
「おう、待ってるよー」
浴へ入り、シャワーの音をてながら、里見はタイマーをセットした。分、髪を乾かしてリビングへ戻ると、予通り、久しはソファのでだらしなく首を折り曲げ、すっかりいびきをかいて熟していた。
テーブルのには空になったグラスと、半分以減ったワインボトル。
「……久し?」
肩を軽く揺すってみるが、ふがっとを鳴らすだけで起きる気配はまったくない。
里見の瞳から、完全に温度が消えた。
彼女は久しのポケットからスマートフォンを抜き取ると、眠りこける夫のの親指を画面のセンサーにそっと押し当てた。
カシャリ、とさな子音が鳴り、ロックが静かに解除された。