"新婚初夜の裏切り" 第3話
決済の狂言
画面をタップし、に受話器を当てると、話の向こうからざわざわとした落ち着かない々の話し声が漏れ聞こえてきた。をめくる乾いた音や、誰かがペンを刻みにらせる音も混ざっている。
「もしもし、桜井美様のお話でしょうか?」
名乗ったのは、いかにも事務で、しかしどこか困惑を滲ませた男性の声だった。
「はい、ですが。どちら様でしょうか」
あえて旧姓で名乗った私に、話の男性は瞬息を詰まらせ、すぐに声を潜めるようにして続けた。
「突然の失礼をお許しください。私、〇〇産の契約管理担当をしておりますと申します。本午より、桜井亮太様ご夫妻がご購入される築戸建宅の代決済をっているのですが……その件でお話を差しげました」
向かいの席でコーヒーをに運んでいた父の昭が、私のただならぬ声のトーンに気づき、静かにカップを置いた。
「はい、どのようなご用件でしょうか」
「実は……物件の購入代および諸経費を含めました千百万円の決済資について、奥様――美様のご名義の預座から全額をご提供いただくというお話で、ご主の健太様が窓にお越しになられているのですが……」
窓から差し込む朝のとは裏腹に、私のは凍りつくようにえ切っていった。
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「千百万円を、私が提供する……ですか?」
「はい。ご主は、美様から正式な委任を受けているとおっしゃり、美様名義のキャッシュカードと、ご署名入りの委任状をご持参されています。ただ……窓で残の照会と送続きをいましたところ、該当の座の残が数千円しかなく、送処理ができない状態となっておりまして……」
担当者の言葉に、私はわずさく乾いた笑いを漏らしそうになった。
当然だ。あのには、端数の千数百円しか入っていない。
「ご主は変揺されておりまして、『妻が別の座におを移しただけだ、俺が夫なんだから何とかする』と窓でく主張されているのですが、千百万円という極めて額なお取引です。資の正当な所者であられる美様ご本に、直接のごを確認させていただきたく、ご連絡を差しげた次第です」
「さん、しだけ、そちらの内の様子を聞かせていただくことはできますか?」
私が頼むと、担当者は「々お待ちください」と言って、受話器をしだけ周囲の空に向けたようだった。
ガサリとしたノイズの向こうから、聞き覚えのある焦り狂った鳴り声がび込んできた。
『し待ってくれと言ってるだろう! 俺は美の夫なんだぞ! 籍を入れたんだから、夫婦のは族のものだ! 美が座を移しただけなんだから、話本で続きさせろ!』
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それは、昨夜まであんなに穏やかに微笑んでいた健太の声だった。甲く裏返り、苛ちと焦燥でまともな理性を失っている。
続いて、泣きしそうな女性の声がなった。弟の妻であるの声だった。
『お兄さん、どういうことですか……? 美さんがお祝いとして全額してくれるって、亮太君から聞いてたのに……!』
『兄貴! どうなってんだよ! 美さんのだから丈夫だって言ったの兄貴だろ!』
弟の亮太の声も響く。
『うるさい! 今俺が考えてるんだから黙ってろ!』
鳴り散らす健太の狂態。
そのに居わせているの支、売主のハウスメーカーの担当者、そして登記をう司法士たちが、この異様な兄弟の修羅をどんなややかな目で見つめているか、容易に像がついた。
話に、再びさんの落ち着いた声が戻ってきた。
「……お聞き苦しい点をお見せして申し訳ありません。状況はお察しいただけたかといます。美様、改めて確認させていただきます。この千百万円の決済について、事にご承ので、資をご提供されるごはおありでしょうか?」
私は背筋をピンと伸ばし、向かいで私を真っ直ぐに見つめる父の目を見つめ返した。
迷いなど、爪の先ほども残っていなかった。