"新婚初夜の裏切り" 第1話
婚初夜の音
ホテルの浴からると、部のは異様なほどしんと静まり返っていた。
オレンジの照が暗く照らすベッドの端に、夫の健太が腰をろしている。元のスマートフォンを指で弾くその横顔は、数まで勢の友たちに囲まれて無邪気に笑っていたのものとは、まるで違っていた。
何わぬ顔で座っている健太の線が、私が髪を拭きながら部央へ歩いていくのを、わずかに追うのが分かった。
「お呂、かったね。疲れてた?」
健太が顔をげ、いつもの穏やかな笑顔を浮かべて声をかけてくる。の付きいので、何度も私をさせてくれた、あの屈託のない笑顔だ。
「うん、し湯でぼーっとしちゃって」
私は努めて何事もないトーンで返し、さなテーブルに置いた自分のハンドバッグへとづいた。
健太は気づいていない。
私がシャワーを止めたあと、ドアをほんの数センチだけけて、部の様子を覗き見ていたことに。
浴のドアの隙から見えたのは、私のバッグのファスナーを音もてずにけ、内側のポケットをごそごそと漁る夫の背だった。そこからさな類袋を抜き取り、自分のビジネスバッグの奥底へ滑り込ませたときの際の良さ。そこには罪悪も、ためらいの震えも切なかった。
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まるで、あらかじめ決まっていた自分のノルマを淡々とこなしているかのようなたさだった。
私はバッグのファスナーをけ、化粧を取りすふりをしながら、指先で内ポケットを探った。
――ない。
父から渡されていたい茶封筒。古いキャッシュカードと、の細が入っていたあの袋が、綺麗さっぱり消えている。
胸の奥に、氷の塊をそのまま呑み込んだようなたさが広がっていくのが分かった。
「どうかした? 美」
背から健太が、気遣うような優しい声で尋ねてくる。
「ううん、なんでもない。ちょっとリップクリームが見当たらなくて」
鏡越しに振り返ると、健太は何つやましいことなどないといった表で、首を傾げていた。部の隅にある彼のバッグは、私が浴に入るとはらかに違う角度で置かれているというのに。
そので問い詰めて、「私のカードを盗んだでしょう」と叫ぶことは簡単だった。
けれど、ここで問い詰めたところで、彼がどんな言い訳をにするかは目に見えている。「バッグがいていたから落ちそうだった」「ちょっと理してあげようとっただけだ」と、調子のいい言葉で取り繕い、度引きがってまた別の会を狙うだけだろう。
このは、今、私と永のを誓ったばかりの初夜に、私の鞄からキャッシュカードを盗みした。
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彼が私のを完全に無して、あのカードを使って何をしようとしているのか。彼自のとしてその結末を見届けるまでは、絶対にをかないとに決めた。
翌朝、カーテンの隙からいが差し込む頃、目を覚ますと健太はすでにスーツに着替えていた。
「おはよう。いね、どこかくの?」
ベッドので体を起こすと、健太はネクタイを締め直しながら、瞬だけ気まずそうに目を泳がせた。
「うん。ちょっと亮太のことで、朝番でなきゃいけなくなってさ」
亮太というのは、健太の歳の弟だ。
「弟さんの用事? 今、婚初なのに……そんなに急ぎなの?」
「ごめん。どうしても今じゃないとダメな事な用なんだ。昼には必ず戻るから、ホテルの美しい朝でもべてゆっくりしててよ」
健太は私の目を見ようとせず、昨夜私のカードを隠した自分のバッグを素く掴むと、逃げるようにドアノブにをかけた。
「……分かったわ。いってらっしゃい」
私がく返すと、健太の元からほっと堵の息が漏れたのが分かった。「引き止められずに済んだ」というが、その顔にありありと浮かんでいた。
パタンと静かにドアが閉まり、部には私だけが取り残された。
健太はあの古いキャッシュカードを握りしめてていった。
あのに入っているはずの『億円』を、自分が自由にかせるとい込んだまま。