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"夫の昇進を伝えた瞬間、父が命じた全財産の移転" 第2話

父の沈黙と凍りついた受話器

翌朝、達也は私と目をわせることもなく、挨拶もなしに社していきました。 玄関に残されたたい空気の、私は朝の片付けを急ぎました。

夫が役員に昇したということは、族にとってきな節目のはずです。 実の両親にも、筋を通して報告しておかなければなりませんでした。

私はリビングの固定話のにち、受話器を取りました。 慣れ親しんだ実の直通番号をプッシュします。

数回の呼びし音の、く落ち着いた声が聞こえてきました。

『はい、神堂です』

「お父さん、美桜です。朝くからごめんなさい」

『どうした、美桜。何かあったのか?』

父の郎は、代で巨な神堂グループを築きげた実業です。 第線からは退いていましたが、その鋭い観察とのを見抜く力は、しも衰えていませんでした。

「実は昨夜、達也さんから報告があったの。来から会社の専務取締役に昇することが正式に決まったそうなの」

私はできるだけるい声を作って話しました。

「これで私たちの暮らしも、しは落ち着くとうわ」

受話器の向こうから、いつもの温かい祝福の言葉が返ってくるものとっていました。 けれど、返ってきたのは沈黙でした。

しん、と静まり返った受話器の向こうから、息を呑むような苦しい空気が伝わってきます。

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まるで、周囲の空気が凍りついてしまったかのようでした。

「……お父さん?」

私がになって呼びかけた、その瞬でした。 受話器の奥から、氷のように研ぎ澄まされた父のい声が響いてきました。

『美桜。今すぐお名義の産、預座、信託資産のすべてを、母さんの名義に移しておきなさい』

あまりにも唐突な言葉に、私は息を止めました。

「え……? お父さん、どうして急にそんなことを言うの?」

夫が世したというばしい報告に対して、あまりにも釣りいな命令でした。

「達也さんは専務に昇したのよ? どうして私の財産をかさなきゃいけないの?」

父は静かに、けれど刃物のように鋭い声で告げました。

『理由を聞くな』

受話器越しに伝わってくる父の気配には、片の迷いもありませんでした。

『というものはな、の丈にわない位と権力をに入れた瞬、の奥底に眠るもっとも醜い本性をむきしにするものだ』

父の言葉が、私の胸を激しく打ちました。

『おを守るためだ。今に類をすべて揃え、の朝番で母さんと信託センターへきなさい』

父はそれ以、何の説もにしませんでした。 静かに通話が切られ、ツーツーという無質な子音だけが部に響き渡りました。

父は百戦錬磨の財界で、無数のの裏表を見てきたです。

根拠のない勘やいつきで、こんなな指示をすはずがありませんでした。

私の背筋に、たい汗がツーと流れていきました。

昨夜の達也の姿が、鮮に脳裏をよぎります。 玄関で着を投げ捨て、私を見した酷な笑み。 首元から漂っていた、あの甘ったるいの匂い。

(お父さんは……私が気づいていない何かに、もう気づいているの?)

父の力を疑う理由など、どこにもありませんでした。 私はく息を吸い込むと、迷いを断ち切るように受話器を置きました。

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