"こぼされた定食の代償" 第3話
踏みにじられた定
そのの夜、自宅のダイニングで、私は夫の史(かずふみ)と向かいって夕をとっていた。
史とは結婚してになる。お互いに仕事を持ち、平は忙しくすれ違うこともいが、週末にはでドライブにかけたり、こうして夜に晩酌を交わしながらの来事を語りったりと、今でもとても仲が良い。
「……でね、その宮さんって子が、歩ちゃんにまでそんな酷いことを言っていたのよ」
私が昼の来事を話すと、史はグラスのビールにをつけ、静かに頷きながら聞いてくれた。
「なるほどな。真面目に働いているをバカにするような連は、会社にとっても害悪でしかないよ。順子、嫌ないをさせたね」
「ううん、私自のことならまだできるの。でも、懸命ご飯を作ってくれているパートのみんなまで傷つけられるのは、どうしても耐えられなくて」
「ああ、よく分かるよ。……実はね、こっちのフロアでも、し厄介な問題が起きていてね」
史がふっと眉をひそめ、真剣な差しになった。
「会社のデータが、部に漏洩した形跡が見つかったんだ」
「えっ……報漏洩!?」
わずを乗りす私に、史は「まだきな声では言えないが」と置きして続けた。
「幸い、流したのは何もの古い取引先リストで、実質な実害はほとんどない。
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だが、侵入された経が問題なんだ。部からのサイバー攻撃ではなく、社内の端末から直接アクセスされた形跡がある」
その瞬、私の脳裏に、今朝の資料のでの景が鮮やかに蘇った。
周囲を警戒するように扉からびしてきた宮ミキ。散らばった類を血相を変えて隠し、「部者に見せるな」と鳴り散らした異常な態度。
「ねえ、あなた。その社内端末って、どこにあったものなの?」
「資料の奥にある、旧システムの管理用パソコンだよ。普段はほとんど誰も使わない所なんだが……」
本の線が、のでカチリと繋がった気がした。
だが、確たる証拠もないのに軽々しい推測をにするわけにはいかない。私は「そう……く解決するといいわね」と言葉を濁し、史のグラスにビールを注ぎした。
そして、翌の昼休み。
最悪の事件は、勢の社員が見守る社員堂のど真んで起きた。
「おい、替わりつ!」
昨に引き続き、神崎とミキが横柄な取りでカウンターに現れた。
神崎は苛たしそうに指先でカウンターをトントンと叩き、ミキは腕組みをして嫌そうに唇を尖らせている。
「はい、替わり定ですね。お待ちください」
歩ちゃんが緊張した面持ちでトレーに定をセットし、カウンター越しに差しした。
神崎はされた料理をからまで眺め回すと、わざとらしいきなため息をついた。
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「うわっ……今も今とてクソまずそうだな。こんなのわされるにもなってみろっての」
「ほんとよねー。ねえ優さん、こんなところでべるのやめて、のイタリアンでもかない?」
ミキが甘ったるい声で提案すると、神崎は「そうだな、それがいい」と品に笑った。
次の瞬だった。
ミキは差しされたばかりのトレーにを伸ばすと、湯気のつお噌汁の椀と姜焼きの皿を——そのまま、に向かって斜めに傾けたのだ。
ガチャンッ!!
陶器の割れる激しい音とともに、温かい汁と油、千切りキャベツが、い面に無残にび散った。
「あっ……!」
歩ちゃんが鳴をげ、堂内が瞬で静まり返った。
さらに神崎までが、面がるように自分の定の乗ったトレーをで蹴り落とした。
ガッシャーン!
「あーあ、が滑っちゃったわ。ごめんなさいねー」
ミキは元をで覆いながら、ちっとも悪びれる様子もなくヘラヘラと笑った。
「こんなまずい餌、お払ってべる価値もないし。ここに捨てていくから、料棒のパートさんたち、綺麗に掃除しておいてね!」
は背を向け、声で笑いながらへ向かって歩きそうとした。
「……待ちなさい」
私の喉から、自分でも驚くほどく、たい声がた。
エプロンの紐をく握り直し、私はカウンターを乗り越えるような勢いでのにちはだかった。
「何よ、おばさん。まだ何か文句あるの?」
ミキが勝ち誇った顔で振り返る。その元には、丹精込めて作った料理が無残に踏みにじられていた。
「べ物を粗末にするのはやめなさい。そして、自分たちが汚した所は、自分たちで片付けなさい」
「はぁ!? なんで客の私たちが掃除しなきゃいけないのよ! 掃除はあんたたち底辺の仕事でしょ!」
「そうですか。では、この状況をそのまま総務と役員会に報告します。社内の備品を故に破損し、業務を妨害した為として」
私が毅然と言い放つと、隣にいた神崎の顔がサッと変わった。
「お、おいミキ……ちょっと待て。これ以騒ぎをきくするのはまずいぞ」
神崎が声でミキの元に囁いた。
「俺、今度の転職活で実績に傷がついたら困るんだよ。役員に目をつけられたら面倒だ……」
その言葉は、私のにしっかりと届いていた。
なるほど、転職。そういうことか。
ミキは舌打ちをし、私を指差して激しく吐き捨てた。
「ふん! 覚えてなさいよ、このクソババア! 私をコケにしたこと、絶対に悔させてやるから!」
は々の体で堂から逃げしていった。
静まり返った堂ので、周囲の社員たちから「丈夫ですか」「酷い奴らだな」と気遣う声が次々にがった。
私は割れた器を片付けながら、胸の奥で静かに炎を燃やしていた。
もう、けをかける段階はとうに過ぎた。
徹底に、黒をつけてやる。