みかん小説
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"二人きりのはずだった旅行" 第4話

「本当に来るのかよ」

「……お、本気で親を呼んだのか?」

トランクへ荷物を積み込む際、俊也が私の腕を掴み、ギリギリと奥歯を噛み締めながら声で詰め寄ってきた。 「本気だけど。何か都でもある?」 「常識で考えろよ! 普通、娘夫婦の旅に嫁の親がノコノコついてくるかよ! 慮ってもんがあるだろ!」 「じゃあ聞くけど、あなたのお母さんはどうして慮しなかったの?」 「母さんは暮らしの未なんだから仕方ないだろ!」

またそれだ。 暮らしだからといって、の夫婦入らずの記旅に当の朝いきなり乗り込んでいい免罪符になるはずがない。俊也の歪んだ脳内では、「自分の母親のが儘」だけが宇宙で番優先されるべき絶対の正義なのだ。

良さんは、の部座席にふんぞり返るなり、偉そうに指図をばしてきた。 「由さん、現に着いたら真っ先にお産へ寄ってちょうだいね。ご所の奥様方に配る銘菓を先に買っておきたいのよ」 私は助席のシートベルトを締めながら、を向いたまま淡々と返した。 「私は現で両親たちと流しますので、お産の案内は俊也さんにお願いしてください」 「なんですって? あなた、ガイドブックを読み込んで調べしてあるんでしょうが!」 「パンフレットならダッシュボードに入っていますよ。

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ご自分でどうぞ」

良さんはあからさまに嫌な顔をし、座席の背もたれを蹴るようにして舌打ちした。 「まったく、嫁の分際でずいぶんとなことねえ。俊也、あんた本当にこんな嫁でいいのかい?」 私はバックミラー越しに義母と目をわせることすら拒絶し、窓のへ線を固定した。

温泉までは、速を使って約ののりだった。 、良さんは「腰が痛い」「喉が渇いた」「トイレがい」と分おきに文句を垂れ、俊也はそのたびにサービスエリアへを滑り込ませた。 いつもなら、私が助席から素くびし、子用のスロープを確認し、売へってお茶や温かいおしぼりを買い揃えていた。 だが今は、シートにく腰掛けたまま、指本かさなかった。

「母さん、何む? 温かいほうじ茶でいいか?」 「ぬるめにしてちょうだいね。あと、あの焼きたてのお団子も本買ってきておくれ」 「わ、分かったよ……」

財布から千円札をし、混みのをりで売へ向かう俊也の背は、発からも経たないうちに、見るもなく丸まって疲弊のを滲ませていた。

昼過ぎ、ようやくに抱かれた温泉旅館の寄せに到着した。 そこで、さらなる現実が彼らに突きつけられた。 「申し訳ございません。当館は全れの呂付き客となっておりまして、本ご予約いただいておりましたのは『棟』でございます」

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フロントの支配が、申し訳なさそうに眉をげた。 「急遽、名様追加ということでございますので、本館の『広付き特別』へお部替えを承ることは能でございますが……差額といたしまして、追加料が万千円ほど発いたしますが、よろしいでしょうか」

「さ、万千円……!?」 俊也が鳴のような声をげた。 良さんは平然とした顔で、息子のの腕を突いた。 「ほら俊也、さっさと払ってちょうだい。あなたが誘ってくれたんだから、親に恥をかかせないでおくれよ」

俊也は縋るような目を私に向けた。 「ゆ、由……活費のカード、持ってるだろ?」 私はややかに首を横に振った。 「持ってるけど、これはあなたとお義母さんの差額でしょう? 私には関係ありません。ご自分の遣い座からどうぞ」

俊也が青ざめた顔で自分のクレジットカードを震えるで差しすのと、ほぼ同に、私のスマートフォンが気よい着信音を鳴らした。 画面には母からの着信。 『由、ロビーに着いたわよ』

エントランスを振り返ると、自ドアをくぐって入ってきたのは、かそうなダウンジャケットを着込んだ父と母、そしての弟・茂のだった。

「由!」 母が私を見つけて、ぱっと満面の笑みを浮かべた。 その隣で、恰幅のいい父が穏やかに笑っている。 「急な話だったが、景の温泉なんて久しぶりだから楽しみだなあ。

酒の美い銘柄をもうリサーチしてきたぞ」 茂が俊也のに歩み寄り、背筋を伸ばして礼儀正しくをげた。 「俊也さん、ご無汰しております。急にお邪魔してすみません」

「あ、ああ……お、お久しぶりです……」 俊也は完全に呑まれ、喉の奥を引き攣らせていた。 私の父は、温だが曲がったことが嫌いな元のだった。体育会系で柄な父のにつと、俊也は昔から借りてきた猫のように萎縮してしまうのだ。

父が俊也の肩をポンと叩いた。 「俊也君、気を遣わせてすまないね。幸い、別館のに空きがあったから、俺たちはそっちで部を取ったよ。せっかくだから、今夜は娘と入らずで積もる話をさせてもらうよ」 「えっ……い、いえ……あの……」

俊也が何かを言いかけるに、私は自分のスーツケースを引いて両親の元へと歩み寄った。 「こう、お母さん。部でお茶をもう」

「おい、ちょっと待てよ由!」 俊也が慌てて駆け寄り、私の首を掴もうとした。 「お、夫婦なんだから俺たちの部に来るのが筋だろ! なんで向こうへくんだよ!」 「あなたたちの部は部にグレードアップしたんでしょう? 良さんとで、ゆくまで親孝の入らずを楽しめばいいじゃない」 「なっ……!」

父が静かに、だが底りする鋭い線を俊也へ向けた。 「俊也君。

何か問題でもあるのかね?」 「い、いえ……何でもありません……」

エレベーターの扉が閉まる直、ロビーの隅にち尽くす俊也と、をへの字に曲げて息子の袖を引っ張る良さんの姿が界をよぎった。 まで、あの所で惨めに荷物を抱え、義母の嫌を取り続けていたのは私だったのだ。

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